2018 Fiscal Year Annual Research Report
A Study on Verbal Morphology of the Tibeto-Burman Languages of the Western Sichuan Ethnic Corridor
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17J40087
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
白井 聡子 筑波大学, 人文社会系, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | チベット=ビルマ語派 / チァン語支 / 動詞接辞 / 方向接辞 / アスペクト / 地理言語学 / ダパ語 / 記述言語学 |
Outline of Annual Research Achievements |
ダパ語ニャト方言、カラケ方言の現地調査を行い、語彙、文法、民話等の一次資料を収集した。その成果として、川西民族走廊における語彙の地理言語学的研究等にそのデータを活用したほか、ニャト方言の声調に関する詳細な記述を行い、論文として発表した。このほか、これまでに調査してきたメト方言のテクスト資料を分析し、記述・対照研究を進めた。その成果の一部として、主題標識に関する方言対照研究を行い、国際会議において発表した。 川西民族走廊諸語に特徴的な動詞接辞である方向接辞について、対照言語学および地理言語学の観点から研究を進めた。対照言語学的研究においては、方向接辞が時制やアスペクトを表示する機能について、主にスートゥ・ギャロン語との対照を行い、他のチベット=ビルマ系言語も参照して、機能の発達を明らかにすると共に、文法化の過程について仮説を提示し、国際ワークショップにおいて発表した。地理言語学的研究においては、個別の方向接辞の形式等について複数の言語特徴分布地図を作成し、地理的分布と形式の比較から、相対的年代および地域特徴としての発達過程を分析し、国際学会において発表した。作成した言語地図および分析の一部は当該学会の予稿資料としてオンライン公開済みである。さらに分析を進め、論文を執筆、投稿中である。 体言化(名詞化)の形態統語法について、ダパ語を中心に記述を進め、日本語および他のチベット=ビルマ系言語との対照を行った。その成果は国内会議で発表したほか、論文にまとめ、投稿中である。 川西民族走廊諸語の否定接辞について、形式、機能、接辞順の観点からデータベースを作成した。 動詞形態法を含めた現象を広い視野に立って研究するという観点から、代表的非人称構文である「雨が降る」を意味する文のタイプについて、チベット=ビルマ語派全体およびアジア全体における地理言語学的研究を行い、共著書の形で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年の研究計画で予定していた5種類の動詞接辞、すなわち、(1) 方向、(2) 否定、(3) アスペクト、(4) 名詞化(体言化)、(5) モダリティのうち、すべてについて、一定の進展があった。特に、(1) 方向接辞については、4種類の方向接辞についてその地理的分布と形成過程をほぼ解明することができ、国際会議でその成果を発表したほか、論文を執筆して国際誌に投稿した。(2) 否定接辞については、形態、機能、接辞順を考慮したデータベースを作成した。現在、分析を進めている。(3) アスペクトを表す形式については、方向との相関を含めた対照言語学的観点から分析を行い、特徴を明らかにした上でその発達段階について仮説を立て、国際ワークショップの場で発表した。(4) 体言化については、ダパ語を中心に分析を進め、それを軸とする形で他言語との対照的研究を進め、国内会議において発表した。(5) モダリティ接辞については、主題標識との相関について考察した。以上のことから、これらの動詞接辞の分析については、順調に進展していると言える。 一方、現地調査による資料収集については、本年の研究計画に照らせばおおむね順調であったが、全体の研究計画を立てた段階で期待していたよりは遅れている。これは、主に、現地情勢の変化により、調査予定地において、少数民族であるインフォーマントと、外国人である私の接触が厳しく制限されるようになったためである。この事情から、本年は、計画段階から現地調査に関する予定を限定的にせざるを得なかった。現地調査は、インフォーマントの故地である少数民族地帯ではなく、都市部において、期間も短期に限定して実施した。しかし、現地調査が限定的であった代替として、過去に収集したデータの再分析や先行研究の収集・分析、および、他の研究者との研究交流を積極的に行うことで、データ収集を補った。
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Strategy for Future Research Activity |
中国四川省において、現地調査による一次資料の収集を行う。ただし、現地情勢の改善が期待できないため、これまでと同じ方法では限定的な調査しかできない恐れがある。そこで、中国国内の研究者との協力関係を構築して、都市部で調査可能なインフォーマント等についての情報提供を依頼し、対面調査を実施して、一次資料収集を進める。また、過去に収集したデータの再分析や先行研究の収集・分析、および、他の研究者との研究交流を通して資料収集を行う。 データベースを拡充し、完成させる。これまでに収集した一次資料および二次資料を用いて入力作業を進め、川西民族走廊諸語の基礎語彙および動詞形態法の対照的データベースを作成する。データ入力に当たっては、一部、入力補助アルバイトを依頼する。 引き続き、動詞接辞の分析を行い、川西民族走廊における地域特徴の形成過程を解明する。分析対象とする動詞接辞には、方向、アスペクト、否定、体言化、人称、モダリティがある。このうち、方向接辞については、前年度までの成果に加えて、分布地図が未作成の接辞についても地図作成と分析を進め、形成過程を解明して、論文を発表する。否定接辞については、ダパ語の詳細な記述をまず行い、これを軸として対照言語学的および地理言語学的観点から川西民族走廊における言語特徴の記述とその形成過程の分析を行う。その成果を学会において発表し、研究討議を進める。体言化接辞については、川西民族走廊諸語における接辞の形式と機能を軸に対照データベースを作成し、分析を進める。アスペクト、人称、モダリティについては、動詞形態法対照データベースに収録し、分布地図を試作したうえで、学会口頭発表や学術誌における公開に向けて準備を進める。
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Research Products
(12 results)
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[Book] Studies in Asian Geolinguistics VIII2018
Author(s)
Shirai, Satoko and Mitsuaki Endo (eds.)
Total Pages
90
Publisher
Research Institute for Languages and Cultures of Asia and Africa, Tokyo University of Foreign Studies
ISBN
978-4-86337-279-5