2017 Fiscal Year Annual Research Report
1930年代フランスの文化政策と「現代性」の概念の確立
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17J40097
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
山本 友紀 日本女子大学, 人間社会学部 文化学科, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 美術におけるフランス性 / 1937年パリ万博 / 人民戦線 / 壁画 |
Outline of Annual Research Achievements |
1930年の文化政策を如実に反映したイベントである1937年のパリ国際博覧会について内実を明らかにするため、それに携わった人物、作品の発注、予算といった制度的な側面、また、万博における彫刻や壁画などの装飾作品が発注されるに至るまでの経緯について、国立公文書館に収められた書簡や議事録などを調査した。それらの調査に基づき、1937年パリ万博における芸術作品が公共事業に用いられることにより持ちえた社会・政治的な意味作用について考察を行った。 申請者は特に博覧会の開催に伴い、恒久の建築物として建設されたシャイヨー宮に掛けられた壁画作品が1930年代フランスの具象芸術が中心である点に注目し、その選別がフランスの同時代美術を「整理」するというフリエスの案に基づいたものであること、ルネ・ユイグやヴァルデマール・ジョルジュなどの美術批評家たちの「近代芸術」の「進化」の見取り図をも反映している点を指摘した。続いて、それらの壁画作品の傾向と実際に現在のシャイヨー宮を見学することによって確認することのできたそれらの設置場所との関連性に注目し、シャイヨー宮の壁画作品は単に内装を装飾するだけでなく、美術館に展示される絵画作品であるかのように「分類」されることで、フランスの近代美術の過去の発展過程とその後の進展の道筋を提示しているとともに、大戦中から美術界で継続的に議論された「フランス的なるもの」とは何かという問いに対する一つの回答でもあることを明らかにした。その一方で、パリ万博では、「パレ・ド・ラ・デクヴェルト」など、人民戦線が政権を得た1936年の6月以降に発注されたパヴィリオンにおいて、「フランス的」でないとされたモダニズム的な作品が除外されなかった点で、1930年代のフランスには装飾芸術を通じてモダニズム芸術の存続を求める動きも存在していたことも指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1937年のパリ万博をめぐる美術作品の発注の状況は、1930年代フランスにおける美術に関する国家主義的動向や社会的役割の重視を背景として、様々な芸術家、思想家、政治家が、現代美術の方向性をめぐってそれぞれの思惑を交差させていたことを反映したものであると考えられる。以上の研究は、美術における「フランス性」の概念が、フランスにおける新たな美術史観が形成される過程と深い相関関係にあることを示す事例研究のひとつとして位置づけられる。 当研究は、昨年度に日仏美術学会例会で発表した「装飾芸術の公共性―1937年パリ万博の壁画作品を中心に」に更なる実証性を与えるものであり、その成果は同題目の論文(『日仏美術学会会報』第36号)にもまとめられている。したがって、研究計画の目的であった3つの項目のうちのひとつ「1937年パリ万博とその周辺」についての調査は、当初の計画通りに研究が進んでいるということができる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究においても、1930年代に現在につながる美術におけるフランス的な「現代性」の概念が形成され始めたとの観点のもとに、パリ万博の周辺で開催された複数の特別展、および人民戦線政府のもとではじまった同時代美術のコレクションの形成、国立の近代美術館の創設とミュゼオロジーの誕生に関するさらなるその精密な調査を行い、研究計画における残る2つの項目である「フランス美術史再編に伴う〈フランス性〉の概念」ならびに「フランス国立近代美術館の誕生」について考察を進めていく予定である。 そのためにも、夏季休暇中もしくは冬期休暇中の海外渡航を計画し、1930年代を中心とした芸術家・思想家・美術批評家などの言説、当時の芸術に関する出版文化、その背景となった社会的事象に関するより広範な一次資料の収集を行う予定である。
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