2017 Fiscal Year Annual Research Report
終末期の延命治療の中止と本人の最善の利益の決定における司法の役割
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17J40172
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
畑中 綾子 東京大学, 公共政策連携研究部, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 医療訴訟 / 司法の役割 / 政策形成 / 終末期医療 / 意思決定支援 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究において、申請者は医療技術の発展に伴い生じる紛争に対し、司法判断が立法や政策に影響を与えることと、司法には社会的インパクトを意識した決定が求められるのではないかと考え、直近の研究では、司法の社会的インパクトを司法の政策形成機能と捉えた研究をおこなってきた。医療分野の賠償訴訟においては司法が立法や行政の裁量行為に対し違法との決定を下し、被害者救済に積極的な役割を見出すことができた。 この点、2年次の成果として日本医事法学会での個別報告として医療分野における司法の役割について論じた「日本の医療分野の賠償訴訟にみられる積極的司法とその修正―近年の医療事故調査制度や救済制度との相互作用も念頭において」にて、これまでの成果を報告するとともに、同学会の年報への報告を行った。また、医療事故調査制度の運用から3年目にあたり、事故調査制度と訴訟の関係を念頭においた論文を発表した(畑中綾子「医療安全に向けた医療事故調査制度の創設―医と法の協働」河上正二・大澤彩『人間の尊厳と法の役割―消費者法を超えて(廣瀬久和先生古稀記念)』信山社(2018.12))。 また、終末期の意思決定支援の課題については、認知症高齢者のための後見人等の医療同意を中心に、複数の国際学会での報告を行った(“The Survey of aged people’s attitude toward end-of-life care: Comparison between Japan and Hong Kong” 9th APRU Research Conference on Population Aging, 7-8 Dec.2018ほか3件)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2年次の研究実施として日本医事法学会において、「日本の医療分野の賠償訴訟にみられる積極的司法とその修正―近年の医療事故調査制度や救済制度との相互作用も念頭において」の題名にて個別報告を行った。この成果は、同学会の年報(年報医事法学)においても再度、報告される予定である。 また、2015年10月より開始された医療事故調査制度が3年目となることから、3年間での事故調査制度の運用状況と、司法との関係について調査を行った。この成果は、畑中綾子「医療安全に向けた医療事故調査制度の創設―医と法の協働」河上正二・大澤彩『人間の尊厳と法の役割―消費者法を超えて(廣瀬久和先生古稀記念)』信山社(2018.12)においてまとめられている。 終末期医療については、特に認知症等により意思決定や意思表明が困難となった高齢者に対し、後見人等が代わって医療同意が可能となるかという点について、香港と日本の比較研究を行い、この点報告を行った。具体的には、香港ではイギリス法を踏襲しており、成年後見人に医療同意権が認められているほか、後見人等が選任されていない場合にも2人以上の医師が延命治療の中止等が医療的に妥当であると判断した場合には、その旨を裁判所に対する申立を行うことができる。これに対し、日本では後見人の医療同意が認められておらず、また裁判所の役割に関する規定もない。日本では、終末期ガイドラインによって医療者、家族、第三者がチームとして医療方針の決定を行うとされているが、その決定プロセスによっても法的責任が免責されるわけではないことから医療者に委縮効果が起こる可能性もかねてから指摘されているところである。この点、比較的同じような死生観や家族観をもつと思われるアジア圏において、裁判所の役割が規定されている点は大変興味深い。この成果は、複数の国際学会の場で報告した。 以上の点から、おおむね順調に研究報告ができた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究において、高齢者が自ら意思決定できなくなった場合に、どのような方策をとることができるかを研究してきた。特に認知症等により意思決定や意思表明が困難となった高齢者に対し、後見人等が代わって医療同意が可能となるかという点について、香港と日本の比較研究を行い、この点報告を行った。具体的には、香港ではイギリス法を踏襲しており、成年後見人に医療同意権が認められているほか、後見人等が選任されていない場合にも2人以上の医師が延命治療の中止等が医療的に妥当であると判断した場合には、その旨を裁判所に対する申立を行うことができる。これに対し、日本では後見人の医療同意が認められておらず、また裁判所の役割に関する規定もない。日本では、終末期ガイドラインによって医療者、家族、第三者がチームとして医療方針の決定を行うとされているが、その決定プロセスによっても法的責任が免責されるわけではないことから医療者に委縮効果が起こる可能性もかねてから指摘されているところである。この点、比較的同じような死生観や家族観をもつと思われるアジア圏において、裁判所の役割が規定されている点は大変興味深く、この点を質的に研究したい。 最終年度にあたっては、日本の終末期医療ガイドラインによる話し合いの結果について、裁判所が確認訴訟としてなんらかのプロセスに介入することはできるか、その場合の是非について提言を交えた研究・報告を実施したいと計画している。
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Research Products
(8 results)