2017 Fiscal Year Research-status Report
地形が植生の分布や生産性へもたらす影響の解析、その植生シミュレーターへの導入
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17K00540
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
佐藤 永 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 北極環境変動総合研究センター, 研究員 (50392965)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小林 秀樹 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 北極環境変動総合研究センター, ユニットリーダー代理 (10392961)
楊 偉 千葉大学, 環境リモートセンシング研究センター, 特任助教 (80725044)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 永久凍土 / 気候変動 / シベリア / カラマツ / 水文過程 |
Outline of Annual Research Achievements |
東シベリアには、落葉性の針葉樹であるカラマツを主な構成樹種とする世界最大の針葉樹林帯が存在する。この地域は冷温と乾燥が厳しく、僅かな環境の違いに応じて、森林・草原・ツンドラが入れ替わる。2017年度の主な成果は、このカラマツの多寡を決める環境因子について定量的知見を得たことである。 具体的には、まず気候・地形・土壌など森林の存続に影響を与えうる9種類の環境因子の地理分布を用いて主成分分析を行い、これら全環境因子の地理分散の過半量を、2つの環境軸(第1・第2主成分)に要約させた。ここで第1主成分は、緯度と強く相関する環境因子で、温量指数と降水量とに強く正の相関を持つ環境軸である。他方で、第2主成分は、斜度と強い負の相関を持ち、土壌厚と強い正の相関を持つことから、土壌保水力を決定する環境軸と見なすことができた。 共同研究者の小林によって作成されたカラマツの葉面積指数と、上記の第1・第2主成分との間で重回帰分析を行ったところ、カラマツの葉面積指数は、第1主成分と単純な正相関、第2主成分とは閾値まで正相関、閾値を超えると負相関となる式が得られた。これより、この地域で森林を成立させる環境条件とは、より温暖で湿潤な環境、および土壌含水力が一定範囲にある環境であることを定量的に明らかにした。 ここで発見された傾向は別のデータからも支持された。すなわち、東シベリア域の近年の正規化植生指数(NDVI)は、第2主成分得点が低い地域で増加トレンド、第2主成分得点が高い地域で減少トレンド、を示した。このNDVIトレンドデータが得られた期間には、この地域全体に降水量の増加が生じており、第2主成分得点が低い(乾燥しやすい)地域で植生の水制限が緩み、第2主成分得点が高い(過湿になりやすい)地域で植生の水ストレスが激化したことを強く示唆するものである。 この成果は、Sato & Kobayashi (2018) JGR-Biogeosciences 123に報告することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
シベリアのカラマツ林帯において、地形などの環境因子が水文過程を通じて植生被覆の多寡に与える影響についての基礎的知見を得た。これにより、今後シミュレーションで再現を試みるグリッド内の環境要素の多様性が植生にもたらす影響について、その定量的な基礎を確立することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、ここで発見されたパターンをシミュレーターで再現させるため、そのような地形多様性がもたらす影響をSEIBに反映させるために、地形多様性が格子内の水循環に与える影響を扱うスキームTOPMODELのSEIBへの導入を行う。また、共同研究者により構築中である下層植生の葉面積指数データセットについても、その地理分布のシミュレーションによる再現を試みる。
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Causes of Carryover |
本研究の成果を、昨年12月に開催されたアメリカ地球物理学会において発表する予定であったが、家庭都合により発表ができなくなったため、未使用額が生じた。本年度の学会大会にて発表する費用に充てる予定である。
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