2017 Fiscal Year Research-status Report
情報モラル教育の学習目標の種類に応じた学習プロセスと学習活動を示した指導法の開発
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17K01079
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Research Institution | Aichi University of Education |
Principal Investigator |
梅田 恭子 愛知教育大学, 教育学部, 准教授 (70345940)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 学習目標の種類 / 社会スキルの育成 / SNS / コミュニケーション / 判断力育成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、学習目標の種類に着目し、それに応じた学習プロセスと学習活動を示した情報モラル教育の指導法の開発と提案である。2017年度は以下の研究を実施した。 まず、CiNiiを使用して2016年4月1日までに発刊された939件の情報モラル教育に関連する論文を対象とした分析を行った。その中で教材開発や授業実践を行っている155件を抽出し、学習目標の種類を分析した。その結果、知識理解、意識や態度変容、判断力育成、ルール学習、社会スキル育成という分類分けができた。しかし、対象論文の目的や評価などの粒度に差があり、再度、検討する必要があることがわかった。 また、学習目標の種類が、社会スキル育成、ルール作成による態度変容、判断力育成の3種類の指導法に関する実践を行った。これまでの研究の続きとして、SNS上でのコミュニケーションスキルの向上を目的とし、アサーション・トレーニングを取り入れた指導法の実践と、SNSを使用する際の適切な行動基準の作成を目指し、内省活動を取り入れた指導法の実践を行った。現在、SNS上のやり取りによるトラブルは大きな社会問題となっており、これに対する指導法を検討することは意義が大きいと考える。今後は、実践で明らかになった成果を整理し、指導の流れを明確にし、指導法として提案することを目指す。 さらに新たに、法的三段論法の考え方を理解し著作権の侵害が成立するかの判断力を育成する実践を行った。著作権法の理念と著作物の定義を理解し、具体的事実を当てはめて、法に違反しているかどうか等の結論を導くロールプレイを取り入れた。その結果、著作権法に基づき客観的な判断ができるようになることがわかった。著作権については知識理解や意識変容を学習目標とした先行研究が多く、判断力育成を対象とした研究はあまりみられない。今後さらに改善をしていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2017年度の目標は、情報モラル教育に関する論文調査による学習目標の種類の分析と、それに対応した情報モラルの指導法の実践的なサイクルの実行である。 前者の論文調査による分析については、教材開発や授業実践を行っている155件を対象に、その論文で行われている教材や授業の学習目標の種類を分析した。その結果、知識理解、意識や態度変容、判断力育成、ルール学習、社会スキル育成、その他という分類分けができ、本研究の一定の目標を達成した。一方で、論文によって学習目標の設定や、評価の方法の粒度に差があり、一律に扱うことが難しいという課題が明らかになった。 また、後者については、これまでの研究も含めて、社会スキル育成、ルール作成による態度変容、判断力育成という3つの学習目標の種類が異なる指導法に対して、全部で5回の実践を行い、検証を行った。本研究の方法として、指導法を設計し、実践し、検証し、改善するサイクルを繰り返す実践的な研究アプローチをとっており、それを着実に実行できている。うち以前より継続しているSNS上のコミュニケーションスキル向上の指導法については2018年度中に指導法をまとめたいと考えている。 以上より「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度は、次のことを重点的に行う予定である。 まず、論文調査による学習目標の種類の分析については、明らかになった課題点を改善するために、論文調査を補足する形で、どのような情報モラル教材が開発されているのかを、論文だけではなく実際に公開され使用されている教材を対象に調査を行いたい。さらに、それらが現在の児童生徒のICT機器やSNS等の利用状況や情報モラルの問題とどのように対応しているのかなどを加味した分析を進めていきたい。ただし、公開されている情報モラル教材の分析は、論文検索の際に用いたCiNiiのような窓口がないため、調査の対象とする範囲をどのように設定するかが課題になると考えられる。 次に、学習目標の種類に着目した情報モラルに関するいくつかの指導法について、設計し、実践し、改善するというサイクルを着実に実行していく。そのうち、2017年度の実践で効果のあったSNS上のアサーティブなコミュニケーション能力を向上させる実践については、指導方法を整理し、学習プロセスを明確にした指導法としてまとめ、紀要や論文等に投稿したいと考えている。 尚、この実践や研究、評価は、当初の予定通り、本学の初等・中等情報の教員養成の学生や大学院生と共に行う。また、全国大会や研究会、国際会議などで随時発表を行い、成果の発表と他の研究者からの情報収集を積極的に行う。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、一つ目に論文の分析について課題が明らかになり、次年度に改めて教材等を加えて検討することにしたためである。二つ目に、実行した3種類の実践のうち、SNS上のコミュニケーションに関する実践と著作権の判断力育成に関する実践は大学生を対象とし学内で行ったため、実践環境に応じて購入する機器や交通費等が予定よりも少なく済んだためである。 2018年度の計画は、論文の分析に加え教材の分析を行うこと、設計した指導法を基に実践を行うこと、SNS上のコミュニケーションスキル向上に関する指導法をまとめることである。そのため情報モラル教材や関連する論文の収集をするために使用する。また、2018年度に行う実践を精緻化するために必要な文献や調査を行うために使用する。次に、授業実践のための教材費、交通費、謝金に用いる。新しい実践校になる場合は、実践に必要な物品を購入する場合もある。さらに、本研究では、学生や院生と行うため交通費や謝金が必要である。なお、授業実践に参加する人数によってはバスの借り上げ等も行う。また、研究上、実践的な実験が必要になった場合には、参加者に謝金を支払う。 さらに、研究成果を学会で報告し、最新動向の把握や意見交換を積極的に行う。また、紀要や論文誌等への投稿も行う。それらの研究成果の発表にかかる費用、別刷り代、場合によっては英語の論文の翻訳費や校閲費に使用する。
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