2018 Fiscal Year Research-status Report
情報モラル教育の学習目標の種類に応じた学習プロセスと学習活動を示した指導法の開発
Project/Area Number |
17K01079
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Research Institution | Aichi University of Education |
Principal Investigator |
梅田 恭子 愛知教育大学, 教育学部, 准教授 (70345940)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 情報モラル / 学習目標の種類 / カリキュラムの作成 / SNS / コミュニケーション / 著作権の判断力育成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、学習目標の種類に着目し、それに応じた学習プロセスと学習活動を示した情報モラル教育の指導法の開発と提案である。2018年度は以下の3つの研究を実施した。 まず、これまで行ってきた論文分析による学習目標の種類に関する研究に、2018年3月までの新規の論文を加え、再度論文を分析した。その中で教材開発や授業実践を行っている181件を抽出した。それらを対象に、学習目標の種類と内容を基にボトムアップ的に分類し、資質・能力の3つの柱と対応付けてカリキュラム表の作成を試みた。また、対応する教材の分類も行った。これらの途中経過を研究会で発表した。今後は改善したカリキュラム表を用いて、教員研修などでの指導案作成に生かす予定である。 次に、SNS上でのコミュニケーションスキルの向上を目的としアサーション・トレーニングを取り入れた指導法に関する研究の成果を紀要としてまとめた。具体的には、これまでの2回の実践から得られた改善点として、講義でSNSでのやり取りに対するポイントの説明を加えること、ロールプレイを振り返る際に話し方の印象評価とルーブリックによる文章評価を取り入れること、ロールプレイでの評価を授業の最後に自分の話し方を振り返ることに利用すること、を追加した実践とその評価についてである。 最後に、著作物の利用における著作権侵害の判断力を育成するための枠組みを新しく開発し、普通科高等学校における授業実践を通して、その効果を検証した。その結果、著作物の利用における著作権侵害の判断をすることはできるが、枠組みにおけるパターンマッチングによる判断に終わってしまっており、著作権法の目的の深い理解に基づいた判断ができるようになるまでには至っていないことがわかった。今後は、この結果を基に、改善をしていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度の目標は、情報モラル教育に関する論文と教材による学習目標の種類の分析と、それに対応した情報モラルの指導法の実践的なサイクルの実行である。 まず、論文と教材による調査による分析については、前年度までの研究結果より、論文によって学習目標の設定や評価の方法の粒度に差があり、一律に扱うことが難しいという課題が明らかになった。そのため、本年度は次の改善を行った。一つ目に、前年度までの研究より以後に発表された新しい論文を加えた。次に、粒度を揃えるために文部科学省「情報モラル指導モデルカリキュラム」の中目標や小目標を参考にして、すべての学習目標について再度分類を行った。その結果、分類だけにとどまらず、新学習指導要領の3つの資質・能力に対応させたカリキュラム表の作成を試みることができた。これについては想定していたよりも発展させることができた。 また、後者については、これまで行ってきた社会スキルの向上を目指したSNS上のコミュニケーションに関する指導法については、これまでの実践から得られた知見を取り入れた実践とその評価について紀要としてまとめることができた。さらに、判断力の育成を目指した著作権に関する指導法については、新たに枠組みを開発し、授業実践を行い、課題を明らかにした。本研究の方法として、指導法を設計し、実践し、検証し、改善するサイクルを繰り返す実践的な研究アプローチをとっており、それを着実に実行できている。 以上より「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、次のことを重点的に行う予定である。 論文調査による学習目標の種類の分析については、2018年度の研究から情報モラル教育のカリキュラム作成への目途がついた。そのため前年度の研究を整理し、精緻化する。具体的には、学習目標の種類や内容を、3つの資質・能力に対応付けたカリキュラム表を完成させ、それを教員研修で使い、評価を行いたい。これらの過程を学会で発表し、また2019年度中に論文・紀要への投稿等を行い、結果を公表していきたいと考えている。 学習目標の種類に着目した情報モラルに関する指導法については、設計し、実践し、改善するというサイクルを着実に実行していく。今年度は次のことについて行いたいと考えている。まず、前年度から引き続き、著作権の判断力の育成に関する指導法の開発、実践、改善を行っていく予定である。ここでいう著作権の判断力とは、条文や単語とのマッチングによる判断ではなく、著作権法の理念(第1条)と著作物の定義(第2条)を理解した判断を目指している。前年度は判断をするための枠組みを開発し、それに沿って判断を行うことを試みたが、枠組みとのマッチングに陥ってしまう部分がみられた。そのため、方法の変更も含めてどのような方法が効果的かを検討していく予定である。また、この研究についての経過を学会や研究会等で発表していきたい。さらに、可能であれば、新しくこれまで取り組んだことのない分野、例えば、情報セキュリティに関する教材や指導法に関して検討したい。 尚、この実践や研究、評価は、当初の予定通り、本学の初等・中等情報の教員養成の学生や大学院生と共に行う。また、さらに、全国大会や研究会、国際会議などで随時発表を行い、成果の発表と他の研究者からの情報収集を積極的に行う。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は以下のとおりである。まず、論文と教材の調査による学習目標の種類の分析については、教材を選択する際に汎用性のあるものに限定したため、無料のものを扱った。そのため、情報モラルの教材購入費が不要となった。また、学会発表については、場所が東京と福井であったため、想定よりも安くなった。さらに、著作権の授業実践に機材を使うことが少なかったため、機器の購入が予定よりも少なく済んだ。 2019年度の計画は、設計する指導法を基に実践や開発を行うこと、論文分析による情報モラルカリキュラムの作成とその結果を論文等で発表することである。そのため、関連する研究に必要な文献や論文を収集をするために使用する。また、授業実践のための教材費、交通費、謝金に用いる。今年度は昨年度と違う高等学校でも実践を行う予定のため、学校の状況によっては実践に必要な物品を購入する場合もある。さらに、本研究では、学生や院生と行うため交通費や謝金が必要である。なお、授業実践に参加する人数によってはバスの借り上げ等も行う。また、研究上、実践的な実験が必要になった場合には、参加者に謝金を支払う。 さらに、研究成果を学会等で報告し、最新動向の把握や意見交換を積極的に行う。また、紀要や論文誌等への投稿も行う。それらの研究成果の発表にかかる費用、別刷り代、場合によっては英語の論文の翻訳費や校閲費に使用する。
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