2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K01244
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
河西 憲一 群馬大学, 大学院理工学府, 准教授 (50334131)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 待ち行列理論 / 応用確率過程論 / モデル化 / 性能評価 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では客がポアソン過程に従って到着し,複数窓口を有する待ち行列システムでサービスを受けるモデルを扱う.ただし,客のサービス時関は相型分布に従い,ある一定の制限時間内にサービスが開始されなければ,客が途中退去することを前提とする.さらに客はクラスに分類されるとし,客のクラス毎に途中退去するまでの一定の制限時間が異なっても良いとする. 客の途中退去が伴う複数窓口の待ち行列モデルそのものの歴史は古いが,1990年代から応用確率論あるいは経営工学の研究者の間で世界的に関心が再度集まった.その主な理由はコールセンターのリソース設計にあったとしてよい.コールセンターでは多数のエージェントを配置し,顧客からの問い合わせに応対するが,サービス品質を維持しながら,エージェントの配置に伴うコストを最小化する方策が経営上の課題だったからである. 1990年代から2010年代にかけて,コールセンターへの応用を意識した多くの研究成果が報告されたが,拡散過程による近似を基礎とした解析が主であった.大規模なコールセンターを考察する上では,拡散近似法は実用上十分な結果を与えるといえる.一方で,規模の大小に関係なく成立する厳密な解析は,数学的解析が困難なため限られていた.その中の一つである報告者等による結果は,客が途中退去するまでの時間が,客に依らず同一の一定値であることを除けば,現実的なコールセンターのモデルとして十分活用可能である. 本研究課題は報告者等のこれまでの研究成果を踏まえ,途中退去するまでの確率分布をより一般的に扱えるように拡張することが主な目標である.これまでの成果の延長線上で検討するならば,途中退去時間の確率分布関数を階段上の関数で近似する方法が考えられる.その考え方に基づき,平成29年度は考察対象の待ち行列モデルを解析する上で基礎となる積分微分方程式の導出とその解について成果を得た.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題ではポアソン過程に従って到着する客が複数窓口を有する待ち行列システムでサービスを受ける待ち行列モデルを扱う.ある一定の制限時間内に客のサービスが開始されなければ,客は途中退去する場合を扱う.客はクラスに分かれていると仮定し,一定の制限時間は客のクラスごとに異なっていても良いとする.一方で,客のサービス時間はクラスに関係なく同一の相型分布に従うと仮定する.同待ち行列モデルを解析するため,平成29年度は客の到達待ち時間の確率密度関数が満足する積分微分方程式を導出した.同方程式を解析した結果,到達待ち時間の確率密度関数の解析解を得た. 得られた解析解は,客のクラス数を制限する形式ではないが,最も簡単な場合である客のクラス数を2つに限定した場合を中心に解の姿を明らかにした.その結果,到達待ち時間の確率密度関数は,クラスを区切る途中退去時間に応じて区分的に定義される形式となることが分かった.また,本検討を進めていく過程での副産物として,単一窓口に限定はされるが,途中退去時間を階段状の関数で近似せずとも,到達待ち時間の密度関数の解析解を時間順序付けされた「行列指数形式」で表現できる可能性を見出した.加えて,この結果を単一窓口ではなく,複数窓口の場合に適用することは困難であるとの知見も得られた.よって,本研究課題が扱う途中退去のある待ち行列モデルにおいては,窓口の数が単一であるか複数であるかの違いが行列指数形式解を持つかどうかに本質的な影響を与えるとの予想を得た.また,さらに途中退去する待ち行列システムの客数分布の上下界の評価に資するアルゴリズムも検討し,その成果の一部を公表した. 平成29年度の当初の計画では,途中退去が伴う複数窓口を有する待ち行列モデルの到達待ち時間に関する積分微分方程式の導出とその解の構成を目標としたため,現在までの進捗状況はおおむね順調でああると判断する.
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度に得られた解析解に基づき,今後は途中退去が伴う複数窓口を有する待ち行列モデルの到達待ち時間の確率密度関数を算出する計算アルゴリズムを検討する.さらに同待ち行列モデルの待ち行列長分布,待ち時間分布,損失率などの性能評価指標を算出する計算アルゴリズムを検討する.検討したアルゴリズムを実装し,数値データを蓄積しつつ解析解の正当性を検証する.到達待ち時間の確率密度関数を評価する計算アルゴリズムを構築するにあたっては,概ね次の手順に従って実施する.まず,到達待ち時間の確率密度関数を,クラスを区切る途中退去時間に応じて区分的に分割する.次に,途中退去時間の短い区間から先に密度関数の解を構成し,隣の区間の密度関数を既に定まった区間の境界値用いて構成する. なお,本研究課題では途中退去時間の確率分布関数を階段状の関数で近似するが,階段状に区切る方法は一つとは限らず,その点において自由度がある.例えば,階段の幅を一様に設定する場合や,分布関数の増加具合に応じて階段の幅を適応的に不均一に設定する場合などが考えられる.また,分布関数を階段状に近似する場合,確率質量の一部が欠損した分布関数となり得る.すなわち,途中退去時間の分布関数を階段状に近似する方法によっては,途中退去しない客のクラスが存在する待ち行列モデルになることを意味する.そのため,今後は近似的な待ち行列モデルの安定条件も検討する. 本研究課題の目的はあくまでも理論的な解析ではあるが,途中退去時間の分布関数を階段状に近似する操作が伴うため,解析解はあくまでも近似解の域を出ない.よって,理論的な解析解の信頼性を多角的に検証するため,計算機シミュレーションを活用する.具体的には,数値的に評価した到達待ち時間の確率密度関数の解析解や性能評価指標を,計算機シミュレーションで評価した結果と照らし合わせ,解析解の近似精度を検証する.
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Research Products
(1 results)