2017 Fiscal Year Research-status Report
高度数理解析と超音波による生体内弾性特性分布の高精度計測
Project/Area Number |
17K01406
|
Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
佐藤 雅弘 富山大学, 大学院理工学研究部(工学), 教授 (90132563)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
長谷川 英之 富山大学, 大学院理工学研究部(工学), 教授 (00344698)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 医用超音波システム / 数値シミュレーション / ずり弾性波 |
Outline of Annual Research Achievements |
心拍により,肝臓内に10Hz前後のずり弾性波(固体における横波,以降ずり波と呼ぶ)が発生することが知られている.そのずり波が伝搬している肝臓を,超音波エコー装置で観測する.そして,そのエコー画像を解析することにより,肝臓内の「ずり波速度分布」を精度よく推定し,病気を早期に,安全かつ無侵襲で発見する方法を開発する.それが本研究の目的である.本年度は計算機シミュレーションによって,その妥当性と有効性を確認した. まず,計算機シミュレーションを使って,生体内のずり波(横波)の伝搬特性を解析した。模擬生体の形状は2次元,長方形ですべての辺が自由である。弾性的性質は一様で,肝臓を想定している。表面の一部にずりひずみパルスを与え,ずり波を励振し,その伝搬特性を,時間を追って解析した。更に,模擬生体内部に横波速度が異なる小さな疑似病変部を設定した場合の計算も行った. 次に,生体組織の超音波エコー観測画像を,これも計算機シミュレーションによって再現した。超音波エコー画像は,生体組織を無数の小さな超音波散乱体の集合と見なして,シミュレーションできる。このように生成した模擬生体に対して超音波を送信し,多数配置された点散乱体からの散乱超音波を数値的に計算することにより,静止状態での超音波エコー画像を再現した. 更に,ずり波伝搬にともない生体内の散乱体の位置が変化する.先の2つの解析結果から,その位置の変化を予測することができる.従って,時々刻々と内部状態が変化する模擬生体からの超音波エコー信号を計算することが可能である. 我々は,媒質振動の位相分布から超高分解能に伝搬速度を推定できる手法を開発した.その方法を計算機シミュレーションで得られた超音波エコー信号画像に適用したところ,ずり波の伝搬に伴い,媒質内の散乱体の粒子速度(すなわち媒質の粒子速度)の位相変化を確認することができた.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)計算機シミュレーションを使って,生体内を伝搬するずり波を解析した。模擬生体の形状は2次元,長方形200mm×400mmですべての辺が自由である。弾性的性質は一様で,縦波速度1600m/s,横波速度1m/sとした。これは,肝臓を想定している。表面の一部にずりひずみパルス(10Hzの正弦波1周期)を与え,ずり波を励振し,その伝搬を,時間を追って解析した。さらに,内部に,横波速度が異なる疑似病変部を設定して計算を行った.病変部は,1辺が10mmの正方形で,縦波速度は周辺部と同じ,横波速度を5m/sとした. (2)生体組織からの超音波エコー画像を,これも計算機シミュレーションによって再現した。生体組織は,無数の超音波散乱体の集合体として考えることができる。このように生成した模擬生体に対して超音波を送信し,多数配置された点散乱体からの散乱超音波を数値的に計算することにより,静止状態での模擬生体からの超音波エコー信号を生成した.計算量と手持ちのシステムの関係から,計算領域を30mm四方とし,散乱体を密度11.1個/mm2でランダムに分散させ,散乱強度も0から1の範囲でランダムに設定した。 (3)ずり波伝搬に伴い生体内の散乱体位置が刻々変化する.(1)の結果を(2)に適用すると,ずり波伝搬に伴う散乱体の位置変化を推定することができる.従って.時々刻々と内部状態が変化する模擬生体からの超音波エコー画像信号を計算できる. (4)我々は,媒質振動の位相分布から超高分解能に伝搬速度を推定できる手法を開発した.その方法を(3)で求めた超音波エコー画像信号に適用したところ,ずり波の伝搬に伴い,媒質内の散乱体の粒子速度(すなわち媒質の粒子速度)の位相変化を確認することができた.
|
Strategy for Future Research Activity |
(1)「開発した2次元ずり波伝搬速度推定法の数値解析による評価」本年度に開発した2次元ずり波伝搬速度推定法(以下本推定法)について,数値解析データを用いて精度評価を行う.模擬生体は数値解析により得られるため,その内部のずり波伝搬速度の真の値は既知である.したがって,本推定法により得られる結果と真値を比較することにより,精度評価を行うとともに,様々な弾性特性分布の条件下においてずり波の屈折や反射などの影響を検討し,それらの影響を低減する手法を検討する.また,伝搬速度計測における空間分解能なども評価する. (2)「超音波送受信システムへの実装」本推定法を実際の超音波エコー信号に適用するため,超音波送受信システムへの実装を行う.測定には,市販の医用超音波プローブを利用し,標本化・保存が可能な超音波送受信システムを構築する.測定した超音波エコー信号に本推定法を実現するソフトウエアを開発する. (3)「実際の模擬生体の製作」上記(1)において,本推定法の精度評価を数値解析的に行うが,実測データに対する有効性を検証するため,実際の模擬生体を用いた実験的検証も行う必要がある.数値解析結果との対応もとれるよう,数値解析実験で生成した模擬生体のうち代表的なもの(均一なもの,腫瘍を模擬した硬化部位があるもの)と同じ仕様で実際の模擬生体を製作する.製作には硬さの異なるウレタンゴムを使用し,それぞれの弾性特性を別途測定しておくことで,ずり波伝搬計測により推定された弾性特性との比較が行えるようにしておく.ウレタンゴムの弾性特性の別途計測においては,ウレタンゴムを変形させた場合の変形量をレーザー変位計で,その際の外力を圧力センサで計測することにより弾性特性を推定する.
|
Causes of Carryover |
当初の申請予算が削減されたことにより,高速計算機の仕様を大幅に変えた.その仕様では,解析にかなりの時間がかかるため,さらなる性能の向上を図りたかったが,残予算では,不足であった.そこで,次年度の予算と合わせて,解析能力の向上を実現したいと考えている.
|
Research Products
(3 results)