2017 Fiscal Year Research-status Report
Aβ蓄積に伴う味覚障害の発症機序解明とアルツハイマー病早期診断法の開発
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17K01416
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
橋本 弘司 熊本大学, 大学院生命科学研究部(保), 助教 (20237936)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
米田 哲也 熊本大学, 大学院生命科学研究部(保), 准教授 (20305022)
國安 明彦 崇城大学, 薬学部, 教授 (90241348)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | MRI / 老人斑 / PADRE / 鉄染色 / 味覚 / アミロイド |
Outline of Annual Research Achievements |
新たなMRI画像化技術(位相差強調画像化法:PADRE)を用いて、ベータアミロイド沈着によるアルツハイマー型認知症の味覚障害を非侵襲かつ早期に見出す診断法の開発を3年間の研究機関を通して確立することを目的としている。 ・PADREによる老人斑の検出技術の確立 29年度はこれまでに予定していたマウスのMRI撮像約60検体中、約50検体まで終了し、データ数の確保に専念した。トランスジェニックマウスおよびワイルドタイプマウスの脳の凍結連続切片に対し、鉄染色、カルシウム染色、免疫染色を行い、PADRE画像との比較を行い、MRI画像と各染色画像との間に月齢(9~16か月令)に応じた老人斑の量に正の相関があることが分かりつつある。これらの結果は招待講演として米田哲也研究分担者がAustralian & New Zealand Society of Magnetic Resonance Conference 2017にて発表を行った。 ・MRI撮像の前処理方法の改善 MRIは強磁性体に大きく反応し画像を描出する。また、老人斑の中心部分には強磁性体である鉄分子が老人斑の巨大化に応じて蓄積量が増すことが我々の研究で分かりつつある。本研究ではMRI撮像の解像度を上げるためホルマリン固定脳をフロリナートに浸潤し、脳室内まで浸透させる必要があるが、その過程でホルマリン固定脳に対してフロリナート中での振とうや超音波処理を行っている。MRI撮像を行わなければこれらの処理は不要で老人斑に同期して鉄やカルシウムの沈着が確認できるが、MRI撮像のためのこれらの前処理を行うと鉄染色やカルシウム染色に悪影響が生じている。また、トランスジェニックマウスが非常に貴重なため不具合の原因究明が充分に行えなかった。現在、MRI撮像の前処理方法の改善や保存方法に関して検討を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
29年度に計画していた1)大脳皮質味覚野およびその周辺部からの逆行性経路の解明と2)味覚閾値検出装置の評価及び改良に関して、PADRE撮像の技術確立を優先したためやや遅れている。 1)に関しては脳切片の強烈な自家蛍光を水素化ホウ素ナトリウムおよび硫酸銅の処理で減弱する方法を見出し概ね良好な結果を得ているが、水素化ホウ素ナトリウム処理中の気泡の発生により、スライドグラスに張り付けた切片の浮き上がりを改善するため、事前にホルマリン処理を行い浮き上がりを改善できるか条件を検討している。また、これらの処理により蛍光ビーズの蛍光の強さに影響が無いか、顕微鏡撮像後、photoshopによる輝度解析を予定している。さらに、細胞生物学のツールとして用いられているGFPタンパク質に影響が無いか調べることを計画している。この技術が確立されれば、脳切片だけでなく、多くの組織や培養細胞について自家蛍光によるアーチファクトを減らせ、蛍光色素を用いた多くの研究に貢献できる可能性があり、研究が派生しているため遅れの一因となっている。 2)に関しては味覚閾値検出装置の動作評価を行い、取り込みソフトウェアの改良をメーカーであるメルクエストに依頼しているが時間がかかっている。具体的には、データ取り込み時間の延長が標準であったため、動物を装置に投入してから一定時間(30分)でデータの取り込みを終了するように改良をお願いしているがソフトウェアの書き換えに時間がかかっている。ハードウェアに関しては動物を傷つけることもなく、安定しているが、ケージが不透明で外部から容易に行動観察ができないため、ライブカメラの追加か、ケージの半透明化を依頼する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
30年度は以下の2つの項目に関して研究を行う。 1)MRI撮像の前処理法の改善 MRI撮像の前処理が鉄染色、カルシウム染色に染色ムラや染色不良、組織のスポンジ化などの悪影響があることが新たに分かり始め、前処理のどの条件が関与しているのか明らかにする。PADRE撮像の解像度を担保するため、脳室へのフロリナート浸潤が我々のMRI撮像条件下では必須であるが、個体により脳室内に浸潤するスピードが異なるため処理時間の違いは避けられない。具体的にはフロリナートに浸潤している時間の長短や、超音波処理の時間や温度、保存方法、および、凍結切片を作成するときに用いている10%グリセリン溶液浸潤の影響の検討を予定している。 2)嗅球切除ラットの味覚閾値及び塩味に対する嫌悪学習の変化 ヒトでは認知症の早期に嗅覚の喪失があることが報告されている。トランスジェニックマウスが非常に貴重なため今後の老齢の動物数を確保する必要がある。これに代わる方法としてアルツハイマーの疑似モデルとして嗅球傷害ラットを作成し、嗅覚に障害のあるラットを対象に味覚閾値および嫌悪学習の変化を観察し、味覚検知装置の改良に取り組む。嗅球切除ラットでの味覚の研究は既に他の研究者により行われているが、未だ味覚閾値や味覚嫌悪学習に対する嗅覚障害の影響は不明である。他の研究者による嗅球切除ラットの作成はスポイトによる嗅球の吸引によって行われており、傷害場所が大脳皮質吻側部にまでおよび結果の判断に疑問が残る。本研究者はイボテン酸の微量注入により嗅球を破壊し大脳皮質への影響を最小限に抑える事ができ、信頼性のある結果が期待できる。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由として2つ挙げられます。 29年度に予定していた学会発表が、MRI研究の軽微な遅れがあり断念したことと、また、本研究者の学部での教育の大幅な変更により予定が合わず旅費を消化できなかったことが挙げられます。 また、味覚閾値検知装置に関して、装置の動作上致命的な不具合は無く、予想されたメーカーへの仕様変更が今のところ急を要しません。今後、装置のソフトウェア、ハードウェアの変更を予定しているため、メーカーへの支出が発生する予定です。 本年度は学会発表に掛かる旅費および装置の改良費、動物飼育費等、昨年度使用しなかった予算が必要になる予定です。
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