2018 Fiscal Year Research-status Report
アルデヒド脱水素酵素が関与するNADPH/葉酸代謝異常と発がん・腫瘍進展機構
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17K01950
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Research Institution | Tohoku Medical and Pharmaceutical University |
Principal Investigator |
佐々木 雅人 東北医科薬科大学, 薬学部, 准教授 (30396527)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山本 一男 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(医学系), 准教授 (70255123)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | がん代謝 / 活性酸素種 / エピジェネティクス |
Outline of Annual Research Achievements |
テトラヒドロ葉酸(THF)代謝は、核酸の合成やDNA・タンパク質のメチル化(エピジェネティック制御)に関与することから、抗がん剤の標的となっている。THF代謝系の酵素の一つであるALDH1L1、および、ALDH1L2による反応系が、近年、主要なNADPHの供給源であると判明し、活性酸素種(ROS)の制御の観点からも着目されている。ALDH1L1/2発現は多くの腫瘍組織・細胞株で減弱しており、これらががん抑制遺伝子である可能性を見出したが、その詳細なメカニズムや意義については不明な点が多い。従って、ALDH1L1/2発現・活性変動が、(1) THF代謝を含むグローバルな細胞内代謝、中でも、核酸合成やエピジェネティック制御異常をもたらすのか、それとも、(2) NADPH・ROS産生・制御異常をもたらすのか、または、(3) 両者が関与するのかを明らかにし、それらが発がん・腫瘍進展に寄与する機構を明らかにすると共に、新たな抗がん治療薬の開発へ応用する事を目的とする。 上記解明を目的に、これまでに肝臓由来HuH-7細胞株で、ALDH1L1、および、ALDH1L2野生型(WT)、並びに、酵素活性を欠く変異体(MT)を発現する安定発現株を樹立した。各WT、および、MT細胞のいずれにおいても、通常の培養条件下における増殖速度や細胞内NADPHレベル、並びに、ROS量には顕著な差は見られず、さらに、葉酸代謝拮抗剤などのストレス負荷条件下においても、顕著な差は見られなかった。一方、ヒストンH3の特定のリジン残基のメチル化状態に違いが見られ、エピジェネティックな影響が観察された。また、メタボローム解析を実施し、THF代謝系とリンクしたアミノ酸代謝系に影響を及ぼすことが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ALDH1L1/2 野生型(WT)、並びに、変異体(MT)を発現するHuH-7安定発現株を作製した。それらを用いて、酸化ストレスや葉酸代謝拮抗剤などのストレス状況下における細胞増殖能や、NADPH定量、細胞内ROS量などの解析を行たところ、各WT、MT安定発現株において顕著な差は観察されなかった。THFはS-アデノシルメチオニン産生にも関与することから、エピジェネティック制御機構への関与について、ヒストンH3のメチル化状態を調べた。その結果、特定のリジン残基においてメチル化状態の変化が観測された。現在この変化が、細胞内S-アデノシルメチオニン産生量の変化の結果もたらされたものであるのか否かを検討している。 同時に、HuH-7安定細胞株を用いて、メタボローム解析を実施したところ、THF代謝にリンクするアミノ酸の代謝系が影響を受けていることが判明した。そこで、ALDH1L1/2発現レベルと、アミノ酸要求性との相関について検討を加えている。
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Strategy for Future Research Activity |
エピジェネティックな変化がSAM依存性であるか否か、メチル化DNAへの影響等を検討し、かつ、得られた結果が、HuH-7細胞特異的な現象であるのか、それとも、他の細胞においても同様の傾向を示すのかについて、他の細胞種においても安定発現株を樹立し、検討を加える。 メタボローム解析で見出された結果をもとに、ALDH1L1/2の発現レベルと代謝阻害剤感受性との相関を調査する。ALDH1L1/2発現は腫瘍のタイプにより減弱するパターンが異なる可能性があることから、本検討により、ALDH1L1/2発現を調べることで抗腫瘍薬選択の有効な指標を明示できると期待される。
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Causes of Carryover |
正常細胞を用いた解析や、マウスへの安定発現株の移植実験が未着手であり、今後それらの解析に使用する予定である。
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[Presentation] テトラヒドロ葉酸代謝酵素ALDH1L1/2 遺伝子発現が活性酸素レベルやエピジェネティック制御に及ぼす影響2019
Author(s)
佐々木雅人, 豊嶋翔子, 熊谷莉歩, 山形由紀子,樋川美優, 高野萌, 大橋弥生, 富塚綾, 伊藤文恵, 田中大, 柴田信之
Organizer
日本薬学会第139年会
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