2019 Fiscal Year Research-status Report
一世代コンディショナル変異導入法を用いた神経疾患原因遺伝子の生理機能解析
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17K01972
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
阿部 学 新潟大学, 脳研究所, 准教授 (10334674)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 神経疾患原因遺伝子 / ゲノム編集 / コンディショナル遺伝子発現制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
生体内における遺伝子の生理機能解析法の中でも特に強力な技術として、Cre-loxP組換え系を用いたコンディショナルノックアウト法が発展してきた。その原理を利用した遺伝子発現系として、ノックイン-トランスジェニック型でCre組換え依存的に強力なプロモーターにより遺伝子を発現させるシステムや、数種のloxP 類縁配列と組み合わせDNA配列を逆位にすることで遺伝子発現を制御するFLEx(またはDIO)と呼ばれるシステムなども存在するが、多くの場合は内在の遺伝子構造と異なっていることが原因で、正確な評価が難しいことが問題となっている。研究代表者は、FLExシステムと異動物種由来ゲノム等を用いた新規コンディショナル遺伝子発現制御法を開発することにより、この問題を解決できる可能性を見出した。 本研究の目的は、開発された新規遺伝子発現制御法の有効性を確認すると同時に、遺伝子変異-中枢神経系回路発達-表現型の関連性を捉えやすい小脳発達期をモデルとして選択し、生理機能が明らかでない2つの神経疾患原因遺伝子、炭酸脱水素酵素関連タンパクCA8(マウス遺伝子名Car8)および翻訳伸長因子EEF1A2 (Eef1a2)とそれらの関連分子を主な変異導入の対象として、小脳発達の分子機序の一端を明らかにすることである。 一方、従来の遺伝子改変マウス作製が遺伝学、発生工学を中心的技術とするため長い実験期間を要するという最大の問題については、近年著しく発展しているゲノム編集技術を適用することで解決可能だと考えられた。研究代表者は簡便なノックインマウス作製法であるマウス初期胚に対する電気穿孔法を用いることによ り、既に一世代-低分子タグノックインマウス作製技術を確立しており、より簡便に長い配列のノックインを可能とするための技術開発も行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本課題申請時に提案した新規遺伝子発現制御法については、比較検討されたDNA要素により構成されたカセットを異なる4つの遺伝子を標的としてノックインした ES細胞を作製し、他大学との共同研究ベースで計5系統のノックインマウスを樹立できた。そのうちの1系統については既に予想通りの標的遺伝子の発現制御の確認まで進んでおり、他の系統についても確認中である。さらに開発を進めていた、標的遺伝子のエクソン-イントロン構造に依存せず全遺伝子へ対応可能なコンディショナルノックインシステムについては、培養細胞での予備実験より動作確認を終えたので、マウス個体において適用するようGONAD (Genome-editing via Oviductal Nucleic Acid Delivery) 法にてノックインマウスの作製を試みたが、長いノックイン配列であったためかマウス樹立には至っていない。本課題での解析対象遺伝子である、小脳発達に関連する神経疾患原因遺伝子CA8、EEF1A、IP3受容体についてCas9の標的となるguideRNA配列を選定し終え、年度当初には計画通りの各種コンディショナル変異導入のためのベクター作製に着手したところであった。しかし、より長い配列のノックインに成功しておらず、まずその技術改良が必須であると考え、優先して実験条件の検討を行った。その結果、Cas9発現マウス系統を用いたGONAD法により極めて効率良く遺伝子変異導入が可能であることを見出したため、現在は長鎖DNAノックインについて条件検討中である。 以上の通り、本課題の進捗状況はやや遅れている
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Strategy for Future Research Activity |
新規遺伝子発現制御法については、すでに1系統のマウス生体内で予想通りに制御されていることが確認されたので、残りの4系統についても同様に制御可能であることが確認されたならこの方法論に関する論文の発表を目指す。 開発中であるコンディショナルノックインシステムについては、予備実験よりそのノックインカセットが動作することは確認されたが、ゲノム編集によるノックインには配列が短い方がノックイン効率は高いことが示されているので、そのDNA要素を改良して配列を短くしていく。現在はGONAD法によるノックインを試みているが、それが困難であると判断された場合にはGONAD法のみでなくTAKE(Technique for Animal Knockout system by Electroporation)法、または安定したノックインマウス作製方法である微量注入法を用いて作製を急ぐ。また、前述の通り、安定的にC57BL/6N系ノックインマウスを作製できているという成果についても論文発表を目指す。解析対象遺伝子である、小脳発達に関連する神経疾患原因遺伝子CA8、EEF1A、IP3受容体について各種コンディショナル変異導入に着手したところであるが、長い配列のノックインマウスが安定的に作製可能となるまでは、申請時提案通りの各種の点変異等のノックインマウスの作製を先行させる予定である。研究協力者とCA8遺伝子の生理機能にについて討議したところ、最新の知見より、IP3受容体よりもむしろ他の遺伝子Nrxn1との関連性を調べることが重要と考えられたため、新たにNrxn1も対象に含めて研究を進める。
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Causes of Carryover |
昨年度と同様の理由であるが、当初計画より当該年度の費用が低額になった理由は主に二点ある。一点は、ノックインマウス作製に適用した方法を早い段階でGONAD法に決めたことである。本課題申請時に主に用いていた方法はTAKE法であり、こちらは手技的に簡便であるものの使用する動物数に関しては微量注入法とほぼ同じで、一度の実験に多数 (10頭以上)のマウスを使用するため、コストは高い手法である。それに対してGONAD法では一度に2~3匹程度を使用するだけであり、また使用する試薬量もTAKE 法に比べ数十分の一である。もう一点は、GONAD法を適用する際に要すると見込まれていた予備実験量の少なさである。研究開始当初よりC57BL/6系マウスへの適用は困難であると予想されていたために相当量の予備実験を想定していたが、実際に開始してみるとほぼ条件検討不要でノックインマウスの作製に成功することができた。また、ゲノム編集技術に必須の試薬に関して、この技術の普及と市場原理のため全体的に価格が低くなってきたことも関係すると思われる。ただし、前述の通りGONAD法での長い配列のノックインには成功していないため、次年度はTAKE法、微量注入法を含めた条件検討に相当量の実験が要求されると思われる。以上の理由で約22万円を次年度に繰り越す必要が生じた。
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