2017 Fiscal Year Research-status Report
Unscientific knowledge and the "egg aging" panic
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17K02069
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
田中 重人 東北大学, 文学研究科, 准教授 (60294013)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 科学技術・医療・生命 / 生殖医学 / 妊孕力 / 卵子 / 疑似科学 / 知識 / マスメディア / 科学コミュニケーション |
Outline of Annual Research Achievements |
1. 「卵子の老化」に関する資料を収集した。一般向けの書籍、専門家向けの医学書、雑誌記事、ウェブページなどを購入、複写、またはダウンロードしている。特に、都道府県が作成しているいわゆる「ライフプラン冊子」やそれに類似する内容のウェブサイト、動画などと、それらを使用した講習会などに関する情報は、できる限り網羅するようにした。 2. これらの資料のなかには、共通した出典のグラフ (外観は異なることが多い) がふくまれている。これらのグラフについて画像データベースをつくり、出典等のメタデータを付与している。 3. 収集した資料から、女性の妊孕力が20代から直線的に低下しはじめるようにみせかけたグラフや、それを「卵子の老化」と結びつける言説が出現するのは2011年以降だったことがわかる。これはカーディフ大学とメルクセローノ研究グループによる International Fertility Decision-Making Study を利用して日本人は妊娠・出産に関する知識レベルが低いとする宣伝がはじまった時期と一致する。ただし、これに先立つ2009年には、卵子の数が思春期以降に直線的に減少して30代後半にはゼロになるといった説明が、有名な産婦人科医による一般向け書籍に現れている。また (そうした言説とは結びつけられていないものの) 不正確な出典表示をともなう「卵子の数」などのグラフは1980年代には存在し、専門家の間で無批判にコピーが繰り返されていたことが確認できる。2011年以降の「卵子の老化」パニックを引き起こした専門家の行動は、少なくともその一部は、以前から産婦人科・生殖医学等の専門家の間にみられたものといえる。 4. 海外の研究者等と意見交換する際に使用する資料として、「卵子の老化」パニックやその背景となる社会状況について説明する文章の英語版を作成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画立案時に想定した事柄については、予算減額にともなう計画の調整はあったものの、おおむね予定どおり進めている。 立案時に想定していなかった新しい事態としては、2017年度後半に、統計データの政策利用に関し、データの信頼性を判断するための情報が隠されたままで利用が進められていたケースが2件あきらかになったことがある。ひとつは箕面市「子ども見守りシステム」データを利用した小中学生の学力格差の分析 (日本財団ほか)、もうひとつは厚生労働省「労働時間等総合実態調査」データを用いた裁量労働制下の労働時間の分析である。専門家が生み出す言説の正しさを非専門家がどのようにチェックするか、という当研究課題の問いに関して、これらのケースは「卵子の老化」パニックと多くの共通点を持つ。現代日本における専門的知識と政治との関連を分析するという観点から、これらのケースについても比較対象とするため、資料を収集することとした。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度には、これまでに収集した資料の分析を進めるともに、収集した情報のデータベース化を進め、検索可能な状態で公開する。資料を一覧できるよう、冊子の報告書にまとめたものも作成する。分析結果について7月に開催される世界社会学会議等で報告するとともに、妊娠・出産等に関する科学的知識の各国での流通状況と、人口政策等への影響について、各国の研究者と情報を交換する。
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Causes of Carryover |
当初計画では初年度に (1) ウェブサイトと資料データベースの作成、および (2) 台湾とシンガポールでの資料収集を予定していた。しかし交付金額の減額にともない、(1) については業者委託をおこなわずに研究者自ら製作することとし、(2) については2018年度に開催される国際会議とあわせて渡航するよう計画を変更した。 2018年度使用金額は、当初請求額にくらべ56万円程度多くなる。これについては、(1) のデータを公開するためのドメイン取得・サーバ設置費用、および (2) のための渡航費に充てるほか、研究開始以降に新たに出版された書籍やウェブサイトなどの資料収集費とする予定である。
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Research Products
(1 results)