2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K02083
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
浅井 美智子 大阪府立大学, 人間社会システム科学研究科, 客員研究員 (10212466)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 卵子提供 / 代理出産 / 遺伝子治療 / 不妊治療 |
Outline of Annual Research Achievements |
高度不妊治療が可能にした第三者の生殖身体(卵子・精子・妊娠出産)に依拠した生殖は、法的規制のないまま行われてきた。日本では、1949年以降、第三者の精子による人工受精によってかなりの子どもが生まれている。その後、提供卵子や代理懐胎出産による生殖が国境を越えて実施され子どもが誕生している。しかし、日本国内では法的規制がないため、その数を把握することはできない。生まれた子どもはその出自に関しては否応なく自己決定の外に置かれてきた。その後、体外受精により提供卵子や提供受精卵、代理懐胎出産による生殖も行われるようになった。これらの技術による生殖は、その根源にある母子関係の分離を前提としなくてはならない。 本研究では、このような技術を用いて子どもを得ることに対し、不妊治療をしてきた女性たちが生まれてくる子どもといかなる関係を築くことを想定してきたのかを探ることを目的としている。卵子や受精卵と妊娠・出産する身体はそもそも一体である。アーレントに依拠して言えば、「無からの創造」という発想は何かが始まる瞬間を継続的時間継起から切り離してしまう点にある。卵子が生殖に寄与できないから他者から「買う、もらう」という発想は命を継続的な時間継起から切り離してしまうことになるだろう。生まれた子どもは自己存在を切断された「はじまり」として始めなくてはならない。本研究では、不妊治療をしてきた女性たち、高度不妊治療、中でも提供卵子や提供受精卵による治療を行わなかった理由また、母子関係についてどのような考えを持っているのか、聞き取り調査を行ってきた。具体的には、不妊治療を行いながら治療を止めた女性(30,40,50,60代)たちへ、治療を止めた理由と子どもと自己との関係について聞きとり調査を行い、彼女たちが母子関係をどのように捉えているかを明らかにする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、2年次までは順調に進んでいたが、コロナ禍で数量的調査が不可能であることがわかり、要件を変えてインタビューすることにした。その大きなフレイムとしては異なる年代(30代、40代、50代、60代)で不妊利用を行った女性4名に聞き取り調査を準備してきた。ところが、コロナ禍によって対面調査も不可能となった。ZOOMでのインタビューを提案したが、ZOOMが困難であることがわかり、紙面での調査を実施中である。紙面では細かいニュアンスがなかなか分かりにくく、ZOOM可能な被験者には対面での聞き取りをしている。再度の調査変更に伴い研究が若干遅れいる。本年度で最終結論を得ることができる。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナ禍で調査が困難だったため、本研究の思想的強化を図っている。特に、レヴィナス、アーレントの思想に依拠し、出生を「顔」「始まり」の概念から捉え直し、第三者の生殖身体を用いた不妊治療が生命の「無からの創造」ではないことを明示したい。第三者の卵子や受精卵、第三者の妊娠出産に依拠する「自分の子ども」とアーレントに即して言えば、「制作への囚われ」と連動している。しかし、その囚われは、生まれた子どもの活動を引き裂く。現在、提供精子によって生まれた子どもたちが自己の存在を存在たらしめている「精子提供者はだれか」を知りたがっている。この囚われとはまさに「制作への囚われ」、すなわち、生まれた子どもの生命の時間的連続性への希求であろうと考えられる。 また、本研究では、これまで先端生殖医療が書き換えてきた「生政治」をフーコーに依拠して明らかにしてきた。この系譜のまとめもしたいと考えている。
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Causes of Carryover |
コロナ禍で調査の実施が困難となり、研究方法の大幅な変更を余儀なくされた。ZOOM等でできる限りの調査を行い、次年度にそれを継続する。また、最終年となり、これまでの研究成果をまとめるために、補助調査、文献研究の成果をまとめるために予算を使う要諦である。
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