2018 Fiscal Year Research-status Report
介護施設における両立支援と女性介護職のキャリア形成
Project/Area Number |
17K02088
|
Research Institution | Jissen Women's University |
Principal Investigator |
山根 純佳 実践女子大学, 人間社会学部, 准教授 (80581636)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 介護施設 / 性別分離 / 両立支援 / 女性のキャリア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,24時間の交替制勤務である介護施設Aにおいて,男性職員が管理職になる一方で,キャリアを積んだ女性介護職員が非正規労働に周辺化されていくメカニズムについて,「女性/男性の選好」による説明に因らない,制度的(資源,言説)要因によって分析することを目的としている.1年目の調査では,正規職員の夜勤従事が必須となっている職場において,男性=管理職という性別分離が強化されていくプロセスについて検討した.2年目の調査では,夜勤専従職員を配置することで,正規職員は夜勤なしの日勤のみという体制を導入した介護施設B(特別養護老人ホーム,有料老人ホーム)において,職員への聞き取り調査を実施し,夜勤労働と性別職務分離の効果を検討した.施設Aでは,24時間,土日と無限定に働くことができる=1人前のスタッフという規範があったのに対し,施設Bでは早番のみのフルタイムでリーダーに従事することが可能となっている.一方で,リーダーだった女性も短時間勤務になった場合には,みなし残業込みの給与体系であるリーダー職をさせないというマネジメントがおこなわれており,女性の働き方が職場によって規定されている面もある.施設Aでは、女性が迫られる選択やアイデンティティが「標準=長時間夜勤あり/非正規」という二分の中で揺れ動いていたのに対し、施設Bでは、あくまで正規職にとどまることを前提に「標準=夜勤なし/土日なしの限定正社員」の間での選択にとどまっている。標準的な働き方を脱無限定化していくマネジメントが、女性の非正規化を止めるために有効だといえる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、女性職であった介護施設において男性が主流化していく(性別分離)メカニズムについて、妊娠、出産、子育て期の女性への両立支援を含む職場のマネジメントの効果に照準を当て分析をしている。これまで2つの施設で50名程の介護職員への聞き取り調査を実施することができた。これまでの調査をとおして、「夜勤労働」が男性化し、夜勤に入らない女性が脱主流化していく施設Aと、夜勤専従の配置により正規職員の日勤のみのシフトを可能にした施設Bとの比較をおこなうことができた。「研究実績の概要」で述べた通り、「標準的労働」のモデル次第で、「家庭責任」を有する労働者が迫られる働き方の選択肢は変わってくる。この比較によって、女性労働者の「選択」と見えている、「母親的働き方(夜勤免除、時短、リーダー降りる)」は、職場のマネジメントによって形成されていることが、一定程度説明できたといえる。一方で、時短勤務などの「両立支援」の利用が女性職員だけに偏っていく要因については、職場内や家庭内の交渉過程を明らかにする必要があったが、これまでの聞き取り調査ではこの部分が十分に明らかとされていない。ただし「両立支援=女性が利用するもの」という言説を構造的な与件ととらえれば、男性職員にとっては働き方の調整をしないことを正当化する資源、女性にとっては調整することを正当化する資源、行為を正当化する資源が非対称に配分されているといえる。以上のことから、本研究は、女性の選好preferenceではなく、マネジメントやそれを前提にした実践/交渉をとおして性別分離が形成されていくプロセスを明らかにしえたといえる。今後は、「男性比率/女性比率」と男女の実践の関係や、女性間の多様性とカテゴリー化といったテーマについて、先行研究の諸概念と結びつけて理論化を試みたい。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究では、これまで介護職員への聞き取り調査を実施してきた。一方で、介護施設が置かれている構造的な条件については、事例調査からは明確にし得ていない。周知のとおり介護報酬によって運営される介護保険事業所は構造的な人手不足にみまわれているが、施設のマネジメントの方針は、その地域の労働力の供給のあり方(求人倍率、外国人労働者の存在)によっても変わってくると考えられる。そこで本研究の3年目である2019年度は、介護保険事業を実施している施設へのアンケート調査を実施し、当該の施設の地域的条件とマネジメント(夜勤のシステム、シフト、福利厚生、両立支援)の関係、またマネジメントと性別分離の関係について統計的な分析を行う予定である。アンケートの作成、印刷、郵送、回収、入力等の予算を計上する。
|
Causes of Carryover |
平成30年度に実施する予定だったアンケート調査を、2019年度に繰り越して実施することになったため、次年度使用額が生じている。アンケートの作成、印刷、郵送、回収、入力等に本年度予算を使用する。
|