2020 Fiscal Year Research-status Report
ダリット女性および部落女性における複合差別とエンパワーメントに関する国際比較研究
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17K02097
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
熊本 理抄 近畿大学, 人権問題研究所, 教授 (80351576)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 複合差別/交差性 / 保育所づくり運動 / 教育 / 労働 / 社会運動 / 主体性 / 共闘 / ケア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、性、人種、階級など、いくつもの条件のからみあいと社会的権力関係の中に位置づけられている部落女性およびダリット女性の課題解決に際して、「複合差別」概念に基づいた実態の把握および理論の構築にある。この目的を踏まえ2020年度に実施した研究は、以下の2点である。 第1に、部落女性の自覚、具体的で独自的な苦難と要求、意識化と要求闘争に基づいた組織の質的向上について考察するため、同和対策事業特別措置法と国際女性年を含む1960年代から70年代を中心に、行為主体である部落女性が展開した保育所づくり運動について、全国各地で調査を実施し、部落女性の解放運動が示す社会的位置を明らかにした。保育を論じる以上、まずは同和教育における同和保育の位置づけとその歴史的背景を確認し、次に女性の労働権保障および妊産婦対策との関連から保育所づくり運動の意義を考察し、部落女性の保育所づくり運動が社会制度の変革に果たした貢献を概観した。さらに1970年代に各地域で多様な展開を見せた保育所づくり運動を示し、そうした部落女性の解放運動にとって共闘のもつ意義を考察した。ケア、生活、地域、家族、再分配と承認といった概念について、部落女性による保育所づくり運動の歴史的社会的意義と課題を検証した点に研究の重要性がある。 第2に、人種、階級、ジェンダーのインターセクショナリティの観点から、権力と抵抗の関係について先行研究を検討した。多様な形態の「抵抗」、例えば集団的、個人的、日常的、非暴力的といった形態の抵抗が、周縁化あるいは序列化された人々によりいかにして世界各地で展開されてきたのかを明らかにすることで、部落女性の解放運動が示す社会的位置との比較研究を試みるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、計画していた海外調査が実施できていない。
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Strategy for Future Research Activity |
海外調査の目途が立たないことから文献研究を発展させたい。世界中で2億5000万人を超える人に影響を及ぼしているとされる世系およびカーストに基づく差別の構造およびそれを生み出す社会関係や社会構造を総合的に描き出すために、既存の差別研究に関して文献収集および理論研究する。類似テーマの研究者との合同研究会を開催して国際的・学際的視点からそれらを検証する。さらに、こうしたプロセスを新たな研究上の連携と学問領域の構築につなげる道すじをつくる。
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