2018 Fiscal Year Research-status Report
A comprehensive study on German voelkisch religious movements and visual culture
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17K02225
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
深澤 英隆 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (30208912)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ドイツ民族主義宗教運動 / 視覚文化 / 宗教芸術 / 民族主義 / プレファシズム |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、まず引き続き、視覚文化論および宗教視覚文化論の先行研究の検討を行った。とりわけ、近代以降の宗教視覚文化についての先行研究と近年の国際的な研究状況を検討し、本研究の理論的側面の基礎固めに努めた。 資料調査としては、まずバイエルン国立図書館(ドイツ、ミュンヘン市)にて、ドイツ民族主義運動関連の資料を収集するほか、同時代の視覚文化についての研究業績の調査・検討をも行った。また同図書館所有のゲルダ・ヴァルター遺稿資料をも閲覧し、本研究課題に関連ある資料の収集に努めた。加えて宗教的視覚文化の実地調査としては、やはりバイエルン州レーゲンスブルク市にあるヴァルハラ神殿を訪れた。同神殿は、19世紀中葉に建てられたドイツ民族主義を象徴する建築物であり、ドイツ民族主義と視覚文化の関連を探るうえで、多くの示唆を与える施設であった。 事例研究としては、平成29年度の資料収集に基づき、F・ゼーセルベルクが率いたヴェルダンディ運動、とりわけ同運動に属していた画家で宗教運動家のH・ヘンドリッヒの思想と作品の検討を行った。同運動は、ドイツ民族主義運動の中では唯一芸術運動として成立したものであり、またその理念の中核には、ドイツ的宗教美術の創出というプログラムがあったことから、本研究課題にとって重要な意味をもつ研究対象であり、また国際的にもこれまでほとんど論じられたことのない対象である。研究成果は、令和元年度中に活字となる論文「表象しえぬ『古代』の表象:ドイツ・プレファシズムにおける視覚文化」において論じた。 さらに、20世紀初頭の事例を考察するなかで、19世紀前半のドイツ・ロマン主義における「芸術宗教」(Kunstreligion)の思想潮流が視野に入ってきた。これについては、日本宗教学会および立教大学・テュービンゲン大学共催の国際シンポジウムでそれぞれ発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度は、調査対象や研究対象につき、当初予定からの変更が一部あったが、全体としては予定していた通りの進捗状況であったと言える。 資料調査について言えば、これまで未訪問であったバイエルン国立図書館において資料を収集したことの意義は非常に大きい。またレーゲンスブルクのヴァルハラ神殿の訪問は、ドイツ国民主義と視覚文化を考えるうえで極めて重要であり、本研究課題の今後の進捗にも大きく影響するものであったと言える。 事例研究については、平成29年度より着手していたH・ヘンドリッヒの事例について論文にまとめたことは、国内外においてこれまで研究が皆無の事例であるだけに、一定の成果を挙げ得たものと言える。それと同時に、ヘンドリッヒを考察するうえで、19世紀以来の「芸術」宗教の潮流が視野に入ってきたことは、当初の予定にはなかったことであり、本研究課題の歴史的考察をより遡って行う必要性を示唆するものと言える。 理論的研究については、視覚文化論と物質文化論が宗教というテーマと交錯する領域に関わる欧米の先行研究についての検討をさらに進めることができた。この領域は、日本ではまだほとんど未開拓の分野であり、本研究プロジェクトには一定の先駆的意味があると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
令和元年度には、まず理論的研究としては、前2年間の事例研究を総合するかたちで、ドイツ民族主義宗教運動における視覚文化の全体的特徴とその宗教的・文化的機能を解明する。また、この事例研究の成果を、視覚文化論一般の議論の地平の中で再把握し、宗教と視覚文化に関わる一般的・理論的考察を行い、一定の結論を導き出す予定である。さらに、平成30年度より課題として浮上してきた「宗教芸術」の概念の成立と展開についての思想史的・文化史的検討をすすめ、その成果をドイツ民族主義宗教運動における美学的潮流とも結びつけつつ総合してゆく。 資料調査および実地調査としては、ベルリン国会図書館で最終的な関連資料の収集を行うほか、デトモルトのヘルマン記念碑等、本プロジェクトに関わりのあるドイツ国民主義の記念施設の調査を行うことを計画している。 事例研究としては、とりわけ「芸術宗教」の理念との関わりにおいて、L・ファーレンクロークの芸術活動と宗教活動の内容を検討し、その視覚文化論的意味を探る。これについては、令和2年度刊行予定の共編著に論文を執筆する予定である。また日本宗教学会においては、芸術宗教と宗教芸術との関係をめぐる理論的考察を報告する予定である。加えて、令和2年度に本研究プロジェクトの集大成としてニュージーランドにおける国際宗教学会においてパネル発表を行うための準備をも進める予定である。
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