2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K02272
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
日暮 雅夫 立命館大学, 産業社会学部, 教授 (70222239)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 批判的社会理論 / ネオリベラリズム / ホネット / ハーバーマス / 承認 / ジェイ / 権威主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、(A)ドイツの批判理論:ハーバーマス、(B)ドイツの批判理論:ホネット、(C)アメリカの批判理論を分析・検討した。 (A)ハーバーマス研究に関して、論文「ハーバーマスにおける討議の政治理論――『事実性と妥当性』におけるーー」を執筆し『ハーバーマスを読む』(ナカニシヤ出版)に提出し、校正を行った。この論文では、ハーバーマスの討議の政治理論の基本構想を、討議倫理学から『事実性と妥当性』まで辿っていき、その今日の可能性を示そうとした。 (B)ホネット研究に関して、ネオリベラリズム批判に関わる複数のホネットのテキストの翻訳を行いつつ、それらを分析した。まず、ホネット著の共訳書『理性の病理』を法政大学出版局から出版した。そこでは、冒頭のカント論でホネットの歴史概念に注目した。ホネットのドイツ語著作『社会主義の理念』の分担分の大部分を翻訳し、分析した(2020年度中に法政大学出版局から刊行予定である)。この分析をもとに、論文「社会主義の理念の今日的再構成――ホネット『社会主義の理念』の分析――」を執筆した。 (C)アメリカ批判理論研究に関して、アメリカにおいてネオリベラリズムがもたらした政治状況と批判理論との関係を分析・考察した。まず、政治状況を整理して小論「アメリカの市民運動の現在」を執筆し『社会文化ハンドブック』(晃洋書房)に掲載した。アメリカの政治状況を批判理論の側から分析し、ネオリベラリズムから権威主義へと展開した、と捉えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、(A)ドイツの批判理論:ハーバーマス、(B)ドイツの批判理論:ホネット、(C)アメリカの批判理論を分析・検討した。 (A)ハーバーマス研究に関して、2020年2月に開催予定であった立命館大学アジア日本研究機構の東アジアシンポジムに、「J.ハーバーマスの市民社会と東アジア」という英語原稿を準備した。そこでは、ハーバーマスの公共圏における市民社会論とホネットの社会主義論を分析し、平田清明の市民社会派マルクス主義と比較した。このシンポジウムはコロナ禍のせいで開催されなかったが、今年度の開催を目指しているのでその発表を準備する。 (B)ホネット研究に関して、『社会主義の理念』の分析をもとに、論文「社会主義の理念の今日的再構成」を執筆し『季報唯物論研究』に掲載した。同書では「特集:アクセル・ホネットと現代社会理論」を編集しそのリードを書いた。さらに、ホネットの新自由主義批判と社会主義理論を結合させ、論文「A.ホネットにおける「社会的自由」と新自由主義批判」を執筆し『批判的社会理論の今日的可能性』(晃洋書房)編集委員会に提出した。 (C)アメリカ批判理論研究に関して、アメリカのカリフォルニア大学のマーティン・ジェイに行ったインタビューの文字起こしと翻訳を行い、「アメリカ批判理論の発展と今日の課題」を提出し校正し、『思想』(2020年5月号、岩波書店)に掲載した。マーティン・ジェイと共編著『アメリカ批判理論:新自由主義への応答』(晃洋書房、2021年2月出版予定)を立命館大学出版助成に応募して採択されたので、各論文の日本人の翻訳担当者を決めて翻訳した。カリフォルニア大学のウェンディ・ブラウン教授を招聘する予定だったが、本人の都合により延期となったことが、計画がやや遅れた点である。
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Strategy for Future Research Activity |
(A)ハーバーマス研究に関して、「J.ハーバーマスの市民社会と東アジア」という英語論文をヴァージョンアップして、立命館大学アジア日本研究機構の東アジアシンポジムに向けて準備する。『アメリカ批判理論:新自由主義への応答』所収のジェイの論文「新自由主的想像力と、理性の空間」の翻訳を完成させ分析し、ハーバーマスのコミュニケーション的合理性と新自由主義的合理性とを比較し、同書の「解題」に掲載する。10月に、フライブルク大学教授ネッケルが来日するので、京都において、ハーバーマスの市民社会に関するシンポジウムを開催する。 (B)ホネット研究に関して、『社会主義の理念』の翻訳を完成し後書きの解説文を執筆し、法政大学出版局から出版する。共編著『批判的社会理論の今日的可能性』(晃洋書房)の「序文」のホネットの部分を執筆する。そこでは、ホネットの思想形成を分析し、それに関連づけて同書掲載の各ホネット論文を概説する予定である。そのなかでホネットのネオリベラリズムの総合的評価を行う。 (C)アメリカ批判理論研究に関して、マーティン・ジェイとの共編著『アメリカ批判理論:新自由主義への応答』(晃洋書房、2021年2月出版予定)の翻訳を完成し、同書のネオリベラリズム批判を概括して解題を執筆する。2021年3月には、同書掲載論文を執筆したカリフォルニア大学教授ウェンディ・ブラウンを招聘しネオリベラリズムに関するシンポジウムを開催予定なので、その交渉を行い実現に向けて準備する。
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Causes of Carryover |
当研究の目的は、批判的社会理論の視点から、ネオリベラリズムを分析し批判することである。そのために今まで、ドイツ批判理論のハーバーマスの理論、ホネットのネオリベラリズム批判を分析すると同時に、客員研究員として滞在したカルフォルニア大学批判理論プログラムの教員たちと交流した。その成果として、同大学M.ジェイ教授との共編著『アメリカ批判理論:新自由主義との応答』を2021年2月に出版予定である。さらに、同大学教授ウェンディ・ブラウン氏を京都に招聘してネオリベラリズムについてのシンポジウムを2020年秋に行うことを企画し本人の承諾を得ていた。しかし、氏は2019年秋に手術をしたため、2021年3月の来日を希望した。したがって、それに合わせて科研費も1年延長した上で、氏を招聘して講演会を企画することに計画を変更した。氏をメインスピーカーとした講演会によって、批判的社会理論からのネオリベラリズム批判の総体像が獲得できるはずである。同大学M.ジェイ教授との共編著『アメリカ批判理論:新自由主義との応答』も、同講演会のテキストとして使用予定である。
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