2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K02285
|
Research Institution | Kyoto City University of Arts |
Principal Investigator |
高橋 悟 京都市立芸術大学, 美術学部/美術研究科, 教授 (30515515)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐藤 知久 京都市立芸術大学, 芸術資源研究センター, 准教授 (70388213)
牧口 千夏 独立行政法人国立美術館京都国立近代美術館, 学芸課, 主任研究員 (90443465)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 脱健常 / 障害 / 環世界 / 芸術人類学 / 感性 / 記録 / 美術館 / 現代芸術 |
Outline of Annual Research Achievements |
設定した2つのテーマ「関係的な領野の記述」と「創作としての新たな展示モデル」に対応するチーム編成により具体的な作業をすすめた。「関係的な領野の記述」では、他者を含む環境との相互作用を捉え記録するための複数の手法を実践した。そのため福祉施設の現場で、集団の身体に外部から働きかけるプロセスを重視したワークショップ、音やリズムに誘発された言葉が他者へと投げかけられるプロセスを重視したワークショップという二つの異なるベクトルからアプローチした。通常のワークショップのように参加者を募り、決められた時間の枠内で進めるのではないのがその特徴だ。舞台作品での演出家と演者のような関係から離れて「やりたければやればいい、やりたくなければそれもいい」というスタンス。そこから、共感、対立、離脱、放置が共存する、そのような独特の場が生まれることになった。それは「単純労働、時間管理、低賃金」がワンセットになった働きかたとは別の可能性や、仕事と遊びの境界の再考へと我々を導くことになった。また障害を有する当事者のみを対象にするのではなく、ケアをする側である施設のサポートスタッフや家族などと複数の関係からなるネットワークを対象とするためにインタビューを含む現在進行形の実験映画を作成している。その目的は、映画を媒介としたコミュニケーションの可能性を探るためである。「創作としての新たな展示モデル」では、空間全体を音響+照明+鏡面のインスタレーション+映像を用いて多面的に使用し、「観る/観られる」、「看る/看られる」という境界を越境する協同的な場の創出を試みた。ただし、高揚し興奮を押さえられなくなるメンバーが出るなど緊張が走る場面もあった。アートという表現の枠組みでは、判断できない出来事を目の前にして、どう振る舞うのか?ハッピーなエンディングとして回収するのではなく、どう語るのか? そのことが改めて問われている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究としての直接的な成果を目指すのではなく、時間をかけて少しずつ福祉の現場の「風景」や「環境」の一部に溶け込むことに留意したことにより、観察し記録する役割を持った外部の人間と障害を有する当事者やサポートスタッフ、家族の方々たちとの「乱反射」するようなネットワークが形成されたことの意義は大きい。その意味で、当事者と我々に作用する騒音や異物を含み、他者や環境をも巻き込んだ縺れのネットワークに、観察者自身も巻き込まれながら変化してゆく記述の可能性という設定したテーマに近づきつつあると考える。そこから、障害のある人の創造行為を個人の完成された作品(Art-Works)としてではなく、生の環境を多感覚的に捉えた記録(Art-Documentation)として提示するという目的と方法論の構築に繋がってゆくであろう。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度は二段階のステップで進める予定である。第一段階としては、これまで2年間の実験と研究から蓄積された「関係的な領野の記述群」を施設の現場との相互的な検証ツールとして改めて記述し直すというメタ記述や相互記述の可能性を探る。それを起点に、編集やキュレーションという作業とは異質な「終わりのない対話」を軸にしたアートドキュメンテーションの実験へとつなげてゆく。さらに「此処」という現場の文脈から離れた「其処」という場にいる多数の他者との距離を音楽の「対位法」のような方法を導入することで応答可能な形式へと発展させることを目指す。
|
Causes of Carryover |
一般からアクセス可能なデジタルアーカイブの構築を計画していたが、個人情報に関わるデータの整理が十分ではなかったため延期した。次年度は、倫理的な問題へ十分な配慮を行いつつ公開可能なデータ構築を目指す。
|
Research Products
(7 results)