2019 Fiscal Year Annual Research Report
Aesthetic Experience and Publicness: Fundamental Study of the Correlation between Ethics and Aesthetics
Project/Area Number |
17K02298
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
小林 信之 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (30225528)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 美的理念 / 両義性 / 肉的経験 / スタイル / 反省的判断 |
Outline of Annual Research Achievements |
個別的なものの領域に属する美と公共性との連関を探求する本研究は、とくにカントの美の分析論を現代の現象学的観点からほりさげていくことで、さらなる展開をはかった。その成果は、2019年度の日本現象学会において「美的なものの概念をめぐって ―カントとメルロ=ポンティの思考から」と題した研究発表によって公開された。 『判断力批判』においては、趣味判断の第二の契機として、判断の論理的「量」が主題化され、美的・感性的次元での普遍性が論じられている。しかもそのさい判断される「美しいもの」は、身体的・感官的な感覚によっても、概念によっても汲みつくすことができず、両者のあいだ、ないし媒介として、いわば両義的なものとして考察されている。こうした両義性や媒介性に連関するテーマは、カントにおいては顕在化していないにしても、そのまま現代の哲学的問題意識にひきつがれており、たとえば理念的なものの始原を間身体性の次元に問い求めるといった現象学的課題に接続するものであるといえる。今回の研究においては、とくにメルロ=ポンティの探求に焦点をさだめた。じっさい、カントのいう合目的的自然に呼応する主観性の、あくまで暗黙の次元での開示性(共通感覚)は、メルロ=ポンティの言葉でいいかえれば、「沈黙のコギト」に呼応するものであろう。つまり自然の合目的性は、わたしたちを統制的にみちびくような一種の理念であり、しかもそれは、わたしたちの内的な感情において調和的に呼応し共鳴するがゆえに、美的な次元で「主観的な」普遍妥当性を要求できるとカントは考えたわけであるが、このような考え方は、メルロ=ポンティの両義性やキアスムといった概念に通ずるものであろう。本研究は、以上のような展望のもとに、個別性と公共性、美的なものと倫理的なものとを媒介する「共通感覚」をめぐる議論を考察するものである。
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Research Products
(2 results)