2019 Fiscal Year Research-status Report
ポストジャポニスム期における日本とフランスの美術文化の相互交流の深化と拡散の研究
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17K02308
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
藤原 貞朗 茨城大学, 人文社会科学部, 教授 (50324728)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ポストジャポニスム / 大戦間期 / 日仏文化交流 / 日本文化論 / フランス文化論 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成31年度(令和元年度)の本研究の課題は、以下の3項目であった。(1)前年度の「①国内調査による日本語文のフランス美術文化論(翻訳も含む)の書誌的調査」と「②仏文の日本美術文化論に関わる雑誌・目録の書誌的調査」の継続、(2)前年度の「③1920~30年代にフランスで活動した日本人美術家のリスト、展覧会リストの作成」と「④1920~30年代に日本で活動したフランス人美術家のリスト、および、フランス美術が展示された展覧会リストの作成」とフィールドワーク調査の継続、(3)上記調査における収集資料の内容分析及び相互文化受容の研究。 この計画に基づき、4-7月は、前年度収集の文献とデータベースの分析に時間を割いた。とくに、前年度の国外調査において収集した資料のデータベース化を行うとともに、英仏独の日本美術研究の交流や日本文化関連の展覧会の関係性を跡づけ、その相似点と相違点の分析を行うためのデータを整理した。 8-12月は、1920-1930年代の日本におけるフランス文化の受容に関わる文献調査と収集を網羅的に実施した。国内の研究機関、図書館、資料館、美術館、古書店をできるかぎり調査し、前年度に調査できなかった文献を収集するとともに、集めることのできた資料、とりわけ膨大な量の雑誌記事のデータベース、関係者人物リストの作成を行った。 1―3月は、上記の資料の分析に従事した。分析にあたり、今年度に新たに注目したのは、1930年代のフランスと日本における相互の美術文化受容の変化である。世界恐慌後の世界情勢の変化と第二次大戦へと向かう状況のなかで、両国の文化交流と言説にそれまでになかった政治的要素が大きく関与する点に注目した。具体的には、これまでの研究で継続してきた岡倉覚三の著作に対する評価に大きな変転がみられること、日仏会館や日仏学院、極東学院の活動の変化を調査・分析することに時間を割いた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成31年度(令和元年度)の計画とした(1)から(3)までの課題について、すべてに取り組み、それぞれに一定の成果をあげることができている。とくに計画当初には想定していなかった1930年代後半に重要なポイントがあったことを確認できる資料や調査結果を得たことは収穫であった。 (1)については、その成果の一部を紀要論文「ピカソからマネへ」の中に反映させて発表した。(2)については、令和元年12月に開催された国際シンポジウムでの口頭発表「バンテアイスレイ事件から『想像の美術館』へ(アジア考古学史のなかのアンドレ・マルロー)」の中に、一部成果を盛り込むことができた。いずれの論文と口頭発表においても、「大戦間期の日仏双方の美術文化の政治性と文化および政治の対外政策の変化や推移の関係づけ」と「双方の美術文化論の交流・影響・対立の諸関係の明確化」(今年度の推進方策③)をある程度は実現することができたと自己評価できる。 (3)の総合的な調査分析については、令和2年3月に予定されていた国際学会のための口頭発表(原稿)「『幻想の中世』と近代の日仏交流(中世学と東洋学のネットワーク)」にその成果を盛り込んだ(学会の開催は延期され、未実施)。「日仏の美術文化論の特質の抽出とその推移(変化、重層化、相互影響)の概念図(見取り図)の作成」(今年度の推進方針①と②)を踏まえた内容を公表することが可能な状況にある。 以上から、おおむね、予定したペースで順調に進めることができていると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本課題の調査研究は、日仏美術文化に関わる著作物を中心とする文献学的調査と日仏相互の文化交流ないし対立を学際的に分析する研究の二つに分かれる。 今年度は、これまで十分に収集してきた文献資料を精査し、データベースを完成して公表するとともに、各論的な分析結果をまとめたい。 分析の方針は前年度に策定した推進方策に従う。すなわち、「①日仏美術文化論の特質の抽出とその推移(変化、重層化、相互影響)の見取り図(グランドデザイン)を策定する」及び「②上記見取り図を、大戦間期の日仏双方の美術文化の政治性と文化および政治の対外政策の変化や推移にリンクさせ、双方美術文化論の交流・影響・対立の諸関係の構造を明らかにする」である。 とくに、「実績の概要」に書いたように、戦時体制へと向かう1930年代における相互受容関係の変化をあらためて重視し、美術文化交流と政治的齟齬の現実とそこへ至るプロセスの解析に努めたい。具体的には、岡倉覚三ほかの国際的文化人の欧文著作に対する日仏相互の評価の変化と齟齬、日仏会館ほか各種機関の文化交流の理念と現実の変化とその政治的意味の解析を明らかにすることから始め、その分析結果をより広く大戦間期の歴史のなかに位置づけてゆきたい。
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Causes of Carryover |
12月に発注していた文献(古書)が、3月になって「品切れ」との連絡が入り、キャンセルされたため。あらためて文献を探し、購入したいと考えている。
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