2022 Fiscal Year Annual Research Report
Antlers of Rebirth : Mythic Image of the Golden Deer of Eurasia from the Siberian Collection of the State Hermitage Museum
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17K02324
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Research Institution | Tama Art University |
Principal Investigator |
鶴岡 真弓 多摩美術大学, その他, 特定研究員 (80245000)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 黄金の鹿 / スキタイ美術 / ユーラシア / 草原文化 / 鹿角 / ケルト文化 / 渦巻 / 生命循環 |
Outline of Annual Research Achievements |
エルミタージュ美術館所蔵、先史ユーラシア考古・美術の至宝である「黄金の鹿」は、インド=ヨーロッパ語族の騎馬民族「スキタイ」の墳墓から出土する黄金製品の代表的作例である。通説にある通り、「黄金」は、被葬者の「生前の威光」と「死後における永遠の生」を表象する素材・表現である。しかしなぜそれは、とりわけ「鹿」の意匠で表現されねば、ならなかったのかは、これまでに解明されてこなかった。本年度の研究では本作をはじめとする「鹿」造形に託された「死からの再生」の観念の由来を、際立って表される「鹿角」の意匠の比較によって、一層掘り下げた。 第一にユーラシア草原地帯において「鹿角」表現は、スキタイ文化最盛期の紀元前6-5世紀に発生したのではなく、紀元前2000年以上に遡る先史「南シベリア」の「石の線刻画」に完成されていた。その特徴的な「巨大な鹿角」表現の傾向は、更に鉄器時代、より豊富に「金」「銀」などによって美的に様式化されていった。第二にこの「鹿角」が、「生命循環」の象徴性を担い成熟していく。その背景には、冬季に枯れ落ちて「死」を迎える「角」が、春には再生することを観察してきた、狩猟時代以来の人々の広範な「鹿角信仰」があることが、中央アジア、南シベリア他のユーラシアの遺物との比較から解明できた。 このように「鹿」を含む「自然生命」の観察から生まれた「動物意匠」は、ヨーロッパの古層「ケルト文化」の渦巻文様にも影響を与えた。自然の精霊である鹿の神話は光輝な金工と共に、「速度ある鹿の走り」が「天体」や「星の巡り」と関係づけられてきたことを示唆しており、スキタイの金工との共通性がみられる。「死からの再生」はケルトの遺物や暦にも反映されており、両文化・美術を個別にではなく「ユーラシアを横断する生命感・死生観」として捉え直す重要性が、より明らかになった。
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Research Products
(15 results)