2017 Fiscal Year Research-status Report
時の視覚化としての星曼荼羅:九曜配置における数理天文学的解釈とホロスコープ占星術
Project/Area Number |
17K02332
|
Research Institution | Osaka Institute of Technology |
Principal Investigator |
松浦 清 大阪工業大学, 工学部, 教授 (70192333)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 星曼荼羅 / 一字金輪 / 九曜 / 七曜攘災決 / 五惑星集合 / 月 |
Outline of Annual Research Achievements |
星曼荼羅の構成要素は、中尊の一字金輪、北斗七星、九曜、十二宮、二十八宿を基本とし、三十六禽を含む作例も存在する。円形式と方形式の二種に大別され、前者は天台系、後者は真言系とされる。真言系の流布本は九曜配置に陰陽五行思想の強い影響を示しているが、これに対して天台系の九曜配置は、作例によって若干の配置の違いが認められ、陰陽五行思想とは異なった構成原理が存在すると予想される。この点についてはこれまで解明されたことがなく、本研究の主要目的は、この解明にある。 本年度は、九曜配置の構図上の意味を画面構成全体から捉え直すため、北斗七星、九曜、十二宮、二十八宿、三十六禽それぞれの尊像表現とそれぞれの配置の意味を再確認することから始めた。それは中尊の一字金輪の性格と相互の位置関係の意味を考えることでもある。北斗七星、十二宮、二十八宿、三十六禽は恒星の集合体であるから、相互の位置関係は変化しないが、九曜は、日月と五惑星の七曜に二隠星を加えたものであるから、それら相互の位置関係は常に変化する。七曜については密教経典『七曜攘災決』に運行データが表形式でまとめられている。誤りが多いものとしてあまり重視されない傾向があるが、統計学的な処理によって利用する方法を検討中である。また、円形式の九曜配置の特徴の一つに、五惑星集合がある。二~四惑星の集合は不吉な兆候とされるのに対して五惑星集合は瑞祥と考えられており、この思想が構図に影響している可能性も検討中である。 一方、日本人は歴史的に天文現象に比較的淡泊であったと指摘されることがあるが、月に対して特別な思いを抱いてきたことは多くの文学作品に示されるとおりであり、絵画についても、中世以来、三日月、上弦、満月、二十日余りの月、有明の月など、比較的作例には恵まれている。時間表現の手段として月が描かれた作例の表現上の特徴についても、引き続き考察を続けている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は円形星曼荼羅の構成要素のうち、特に九曜の配置の意味を、中尊の一字金輪の性格を踏まえて解明しようとするものである。 方形星曼荼羅における九曜の配当原理は、明らかに陰陽五行思想である。この思想を踏まえて五惑星を画面の東西南北に配置するため、方形星曼荼羅では、本来は北天を通過することのない水星を北方に配置することになった。これに対して円形星曼荼羅では、北方に北斗七星を、南方に九曜を配置して、現実の天空の状況が反映されるような構図となっている。南天に五惑星が集合することは極めて珍しい天文現象である。この五惑星集合は歴史的には何度か観測されており、平安時代にもそのように解釈すべき天文現象があったことは、天文シミュレーションソフト「ステラナビゲータ9」を使用した解析によって理解される。歴史的事実を背景として星曼荼羅が制作された可能性を考える上で極めて重要な視点となる。ただし、円形星曼荼羅の画面上のどの位置を、現実の南天のどの位置に対応させるかは、なかなか判断の難しい問題である。九曜の相互の位置関係は作例間で若干の違いが認められるため、その分類が可能かどうかを含めて検討中である。 星曼荼羅成立の背景という点に関しては、藤原定家の日記『明月記』に記されるように、客星の出現すなわち蟹座の超新星爆発などの天文現象が現実に存在したことも、重要な観点になるかもしれない。この点についても解明に努める。 以上の課題が明確化したことも含めて、研究はおおむね計画どおりに進んでいる。
|
Strategy for Future Research Activity |
円形星曼荼羅における九曜配置の意味は、他の構成要素、特に恒星の集合体としての星宿との位置関係にあると推測されるが、一層大きな意味を持つのは中尊としての一字金輪の性格であると考えられる。一字金輪が構図全体を支配するとみなされるため、一字金輪の性格をどのようなものと捉えるかが重要な鍵となる。一字金輪は古代インドにおける理想的な帝王としての転輪聖王をモデルとするものと解釈されるが、星曼荼羅の成立期における理想的な帝王をどのような存在と考えるかも重要な観点となる。天皇か法皇か、あるいは聖徳太子のような仏教の基礎を築いた聖人とするか、等々である。 上記の「現在までの進捗状況」で取り上げた五星集合については、ある程度絞り込むことが可能なので、まず、この天文現象を特定し、星曼荼羅の成立との関係を整理することを進めたい。ただし、天空における五星集合の相互の位置関係は、星曼荼羅の作例に見られる五惑星の相互の位置関係とはやや異なる。この点をどのように解釈するかという新たな問題が出現している。 五惑星とともに七曜を形成する日月の運行と二隠星の位置関係も検討すべき課題である。上記の「現在までの進捗状況」で取り上げた密教経典『七曜攘災決』に掲載されている七曜の運行データをどのように数値化すれば天文現象に関する密教的理解を把握できるのか、この点も大きな課題である。 当面は、作例に恵まれている月を描く絵画の時間表現を同時並行的に検討して、星曼荼羅解明に役立てたい。
|
Causes of Carryover |
(理由):年度末に海外の博物館等施設が所蔵する資料の調査を実施したが、これは翌年度分の使用計画に盛り込まれたため、次年度使用額が生じる主因となった。海外旅費は次年度使用額の大半を占めている。 (使用計画):年度末に執行した海外旅費について、翌年度分として請求する。差額については、国内旅費や図書費として執行する予定である。
|