2017 Fiscal Year Research-status Report
Mapping the Olfactory: Modernist Representation of Body and the City in Early 20th-Century England
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17K02388
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Research Institution | Chubu University |
Principal Investigator |
伊藤 裕子 中部大学, 国際関係学部, 教授 (50434569)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 嗅覚の表象 / イギリス・モダニズム / 身体の表象 / イギリス20世紀文学 / モダニズム文学 / ヴァージニア・ウルフ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、20世紀初頭イギリス芸術におけるモダニズムが表現する身体観を解明するため、嗅覚に着目し、身体そして身体が徘徊し居住する都市との関係を考察する。モダニストにとって主要な表現媒体である身体は、この時代のモダニストが表現する「におい」によって、再定義が可能である。こうした視点から既存のモダニズム身体論に対して新たな視座を提供することが本研究の目的である。 29年度においては、本研究の予備調査結果に基づき、平成29年6月10日第28回イギリス女性史研究会にて、研究発表「ヴァージニア・ウルフと嗅覚的表象―身体と空間の想像的構築をめぐって―」を行った。この発表後の討論では、本研究課題をスタートするにあたって、文学研究、および歴史学研究の立場からの意見を踏まえて、研究の方向性も議論した。そして、過去における「におい」とは、表象にのみその痕跡を残しているのであり、表象論による嗅覚の分析が可能になる点を確認した。特にモダニズムの作家、ヴァージニア・ウルフの著作において、この時期特有の「におい」のありかた、すなわち嗅覚的表象が生物学的な義務的機能から解き放たれ、それ自体が新しい感覚や思考を生み出すものとして一人歩きすること、が証明できる可能性を論じた。 本研究会での議論とイギリスにおける研究調査の結果をふまえた論文「表象される嗅覚の地図-ヴァージニア・ウルフにおける身体と空間の想像的構築をめぐって―」を学術雑誌『女性とジェンダーの歴史』に投稿中である。この論文において、ウルフのテキスト中の「におい」の戦略が、悪臭を活用した女性の身体的開放をほのめかし、アラン・コルバンが論じる19世紀的倫理観にかなったステレオタイプ化された女性とにおいとの関係を帳消しにしていることを論じた。モダニズム期ロンドンにおける嗅覚と身体の関係の一端を明らかにした点で重要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、日本およびロンドンにて収集した文字テクストおよび絵画・イメージなどの視覚的テクストに嗅覚的表象を探り、知覚表象論、モダニズム、身体論、嗅覚文化、舞台芸術、文学そしてロンドンの地誌的研究史を踏まえた上で分析を行う。それにより、嗅覚的表象がモダニズム身体観に及ぼした影響を明らかにし、モダニズムと嗅覚との関係を定義付ける。 29年度においては、モダニズム期における嗅覚的表象と身体との関係を探るために、その歴史的背景も含め19世紀末から1930年代までのロンドンの嗅覚的表象に関わる第一次資料を調査し、特に世紀末から第一次世界大戦前の時代区分の整理、分析を行った。 本研究にとって要となる嗅覚に関する表象の実例を探索、収集した後に比較考察を行なうため以下の文献調査を実施した。第一に、19世紀末から第一次大戦前までのテクストを中心に、第一次資料調査を国内およびイギリスにて行った。また、ブラウン大学、レディング大学等が主導するThe Modernist Journals Projectによってデータベース化されたモダニストによる各種雑誌を調査した。 第二に、第一次資料に関してロンドン大学Senate House Libraryが所蔵する以下の資料調査をロンドンにて行った。1)Bromhead Library Collection、2)Malcolm Morley Collection、3)Playne Collection 29年度における研究成果の一部を、"Scents and the Memory of War in Virginia Woolf's Writings" と題し、2018年6月24日、The International Virginia Woolf Society Annual Conference (イギリス・ケント大学)において発表予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
29年度に引き続き、本研究の批評理論的背景となる、知覚表象論、モダニズム論、身体論について文献調査を進め、イギリスの図書館や文書館が所蔵する第一次資料を通して、嗅覚的表象に特化した観点から、嗅覚文化、舞台文化、社交界文化、文学、ロンドン地誌、第一次世界大戦と身体表象の分析を進める。こうした多角的な観点から、射程に入れる時代の背景やそうした観点にまつわる現代の批評や研究成果を検討しつつ、嗅覚的表象とモダニズム身体との関係についての考察を深める。 30年度以降においては以下の文献調査を適宜行い、射程に入れる時代区分における嗅覚的表象の整理、分析を行う。1)<30年度>19世紀末から第一次大戦後までのロンドンにおける香にまつわる産業の月報、嗅覚文化にまつわる文献および視覚的資料(British Library)、およびロンドン地誌(Senate House Libraries; The Mass Observation Archive,The Keep, University of Sussex Library )、2)<31年度>舞台文化にまつわる文献、雑誌、資料(London Royal Opera House Archive; British Newspaper Archive; British Library)、3)<31年度>同時期におけるモダニズムに関わるロンドンとパリの社交界文化(British Library)およびロンドン地誌(Senate House Libraries; The Mass Observation Archive)、4)<32年度>ロンドン地誌 (Senate House Libraries; British Library; The Mass Observation Archive)
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Causes of Carryover |
29年度において、72,872円の次年度使用額が生じた理由は、第一に、外国語論文の校閲が30年度に持ち越されたため、第二に資料管理にかかった費用が本年度は見積もりを下回ったためである。30年度における利用計画は以下の通りである。 30年度6月上旬 外国語論文の校閲 50,000円予定 30年度9月頃 Cannon LBP9200プリンターインクの購入費用(4色86,000円)の一部に充てる予定
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