2017 Fiscal Year Research-status Report
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17K02428
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
牧野 淳司 明治大学, 文学部, 専任教授 (10453961)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 唱導 / 寺院資料 / 澄憲 / 転法輪鈔 / 源氏物語表白 / 優填王 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本の中世に作成された唱導資料(仏の教えを広めるために僧侶が行った説経に関係する資料)について、その文化史的価値を追究するため、文学・日本史学・仏教史学・美術史学など関連諸分野の成果を参照して、複数の角度から多角的に読解・考察を試みる研究を実施した。平成29年度は、主に、二方面からの研究を行った。 一つは、美術史的観点からの考察である。平安時代から鎌倉時代にかけて、夥しい数の仏像・経典が作られ、巨大な寺院・塔が次々と建立された。これまで、仏像や堂塔は、美術史学や建築史学の研究領域で、唱導とその資料が用いられることはほとんど無かった。しかし、唱導資料を眺めると、唱導が仏像造立や堂舎建立にさまざまに関与したことが分かる。本研究により、唱導資料が美術史学の分野でも価値を持つことを示すことができた。具体的には、仏像造立について、優填王(世界で最初に仏像を造ったとされる優填国の王)の先例・物語が唱導の場で巧みに語られることにより、造られた仏像が単なるモノではなくなり、真仏と同等の救済の力を吹き込まれたことを指摘した。また堂舎建立については、伊豆の願成就院に関する新出資料を分析し、源頼朝の東国における仏法興隆事業が、天台僧である澄憲の唱導と密接に関係しながら進められたことを明らかにした。 もう一つは、物語文学史的観点からの考察である。平安時代末期から唱導は源氏供養(源氏物語の作者である紫式部のために法華経を書写して供養する営み)を行うようになる。その資料を分析することで、唱導が物語を通して人々を仏教へ導く際の論理を明らかにした。これは唱導による源氏物語の利用ともとれるが、そもそも源氏物語自体に、法華経による仏教への結縁を促す要素が含まれていることを、源氏物語に描かれた法事場面の検討や巻名にもなっている「御法」という言葉の用例分析から明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は日本中世の唱導資料について、その価値をできる限り多角的に明らかにし、文学研究の分野のみならず、関連諸分野(日本史学、仏教史学、思想史学、美術史学など)での積極的な活用が可能となるよう、唱導資料の持つ資料的特質を追究することを目的とする。このような目的に対して、平成29年度は美術史学的観点からの成果をいくつか発表することができた。これには平成29年の3月に、運慶の仏像を所蔵する伊豆の願成就院に関係する唱導資料を紹介できたことが関係している。折しも平成29年の秋に東京国立博物館で、さらに平成30年始めに神奈川県立金沢文庫で、運慶展が開催されたのである。それに伴って開催されたシンポジウムなどに参加することで、美術史学の研究者と意見交換を行うことができ、それにより研究を順調に進めることができた。また研究成果について、一般に広く発信することも可能となった(願成就院に関する唱導資料の価値は読売新聞2017年9月6日朝刊で紹介され、唱導が生きた仏像を生み出す役割を担ったことは、『芸術新潮』2017年10月号に紹介された)。 同時に、当初の研究実施計画に含まれていた源氏供養関係資料(源氏物語表白)についても、着実に読解を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、唱導資料の多角的方面からの研究を進める。唱導資料の研究は、平成29年度に予想以上の進展を見せた。その成果の一つが、『天野山金剛寺善本叢刊 第二期』(勉誠出版、平成30年2月)の刊行である。これにより、金剛寺が所蔵する平安時代から鎌倉時代にかけての貴重な唱導資料の多くが紹介された。もちろん、解題的研究も同時に発表されているが、本研究を行うにあたって、これらの新資料を視野に入れることで、新たな角度からの唱導資料研究が可能になることが考えられる。新資料にも目を配りながら研究を行っていく方針である。 また、平成30年度秋には、国文学研究資料館などで唱導に関係する展示が行われる予定である。この展示に積極的に関与することで、関係諸分野の研究者と積極的な情報交換を行い、研究の幅を広げていくようにする。
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Causes of Carryover |
調査やデータ整理で用いるパソコンおよび周辺機器などについて、研究の進捗状況を考慮して、次年度に整備することとしたため。次年度、パソコンなどの購入で使用する計画である。
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