2018 Fiscal Year Research-status Report
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17K02428
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
牧野 淳司 明治大学, 文学部, 専任教授 (10453961)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 唱導 / 寺院資料 / 澄憲 / 弁暁 / 後白河法皇 / 平家物語 / 源氏物語 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本中世の唱導(仏の教えを広く説く行為)に関係する資料について、仏教史学・日本史学・文学など関係諸分野の研究成果を参照して、文学史的・文化史的価値を多角的に追究する研究を実施した。2018年度は、思想史的観点からの考察が中心となった。特に、国と王をめぐる問題、および女性をめぐる問題に着目した。 平安時代末、日本の国は全国規模の戦乱の中にあった(治承・寿永の内乱)。鎌倉時代へと移行する時代の変わり目である。この内乱では多数の死者が出たが、この時期に日本国の王として君臨していたのは後白河法皇であった。法皇は内乱に対してどのように振る舞ったか、内乱後にどのような国を作ろうとしていたか、このような点について、唱導資料は新たな知見を提供することを示した。後白河法皇のすぐ側では、澄憲や弁暁といった唱導僧が活躍しており、その言説を唱導資料から分析することができるのである。後白河法皇が死者の供養を営みつつ、仏法の力で亡魂を威圧し、悪鬼・怨霊に犯されない国を唱導僧と協力して作りだそうと動いていた様子を、唱導資料から読み取ることができる。 仏教が女性にどう接したかという問題については、従来、その救済のあり方が問題視されてきた。女性の成仏の可否、男性との優劣など、差別の様相が分析されてきた。そのような中、人々に大きな影響を与えた説経で「女人」という存在がどのように説かれたか、女性を前にし説経でどのようなことが説かれたか、これまでは分析が不足していた。数少ない研究の中には、唱導が女性差別的言説を広めていたという見解を提示するものもあるが、必ずしもそのようには言えないこと、むしろ女性の思いに寄り添う活動をしていた形跡があることを示した。 以上のような研究を進めつつ、『源氏物語』に描かれた唱導の場面(法事の場面)の分析なども行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
唱導資料を関連諸領域(文学・日本史学・仏教史学・美術史学など)の成果を参照しつつ、多角的に分析するためには、さまざまな分野の研究者からの情報や助言があることが望ましい。2018年度は唱導資料を所蔵している機関や、唱導を研究している研究者が所属する機関が連携して、唱導を中心テーマとする特別展が開催された。 ・国文学研究資料館特別展示「祈りと救いの中世」10月15日~12月15日 ・神奈川県立博物館特別展「鎌倉ゆかりの芸能と儀礼」10月27日~12月9日 ・神奈川県立金沢文庫特別展「顕われた神々―中世の霊場と唱導―」11月16日~1月14日 ・國學院大學博物館企画展「列島の祈り」11月3日~1月14日 それぞれタイトルは異なるが、どれも唱導資料を軸に構成された展示であった。このような企画に積極的に参加することで唱導資料の価値を多角的に追究するための視点や方法について、多く学ぶことができた。また、本研究の成果を展示や図録解説などの形で発信する機会も得ることができた。このような本研究と密接に関係する展示企画があったことにより、他機関に所属する研究者と連携することができ、本研究を順調に進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、唱導資料研究を含む寺院資料研究が大変盛んである。仏教文学会や説話文学会では寺院資料をテーマにしたシンポジウムがほぼ毎年のように開かれている。唱導資料についても調査・研究の成果として、影印や翻刻が次々と刊行されている。2018年には、金剛寺の唱導資料(後藤昭雄監修『天野山金剛寺善本叢刊』第二期、勉誠出版、2018年2月)や金沢文庫保管の湛睿の唱導資料(納冨常天著『金沢文庫蔵 国宝 称名寺聖教 湛睿説草 研究と翻刻』勉誠出版、2018年6月)が世に出された。これらの資料およびそれをめぐる研究を視野に入れながら、唱導資料の価値を追究する試みを継続していく。同時に、本研究の最終年度となるため、現段階での研究成果をまとめた報告書を作成し、次へのステップとする。
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Causes of Carryover |
調査で用いるパソコンおよび周辺機器について、研究の進捗状況を考慮して、整備を控えたため。次年度、研究をとりまとめるに当たって、これまでの調査・研究を整理するためのパソコン購入と、本研究の成果を提供するための報告書作成の経費に使用する計画である。
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Remarks |
コラム「唱導により顕われる日本国とその神」神奈川県立金沢文庫特別展図録『顕われた神々―中世の霊場と唱導』2018年11月、84~85頁 国文学研究資料館特別展示図録『祈りと救いの中世』2018年10月のうち、「転法輪鈔」など8項目を分担執筆
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Research Products
(3 results)