2019 Fiscal Year Annual Research Report
Reseach on the Medieval Texts of Preaching from various viewpoints
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17K02428
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
牧野 淳司 明治大学, 文学部, 専任教授 (10453961)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 唱導 / 澄憲 / 弁暁 / 平家物語 / 後白河法皇 / 大原御幸 |
Outline of Annual Research Achievements |
後白河法皇の時代の唱導が戦乱で命を落とした人の霊魂に、どのように向き合ったかを分析した。具体的には、延暦寺僧である澄憲と東大寺僧である弁暁の唱導資料を扱った。ともに、後白河法皇の傍らで活動した唱導僧である。 澄憲や弁暁の唱導資料には、平安時代末に起こった全国規模の内乱に対する認識が示された部分がある。そこに注目すると、戦乱は「乱臣」「賊子」が引き起こしたものであり、後白河法皇がそれを討伐したのは当然のことであったとする。だが、後白河法皇は亡魂供養を営み、「謀叛」を起こした人の罪もゆるして、死者を平等に救済しようとしている、とも述べている。澄憲や弁暁は戦死者の霊に対して、「謀叛」を起こしたのだから討伐されたことは当然であり怨む理由はないと言うことで、後白河法皇に対する怨念を封じようとしている。また、「謀叛」を引き起こした罪を許されて供養をうけることができるのは、後白河法皇の慈悲のおかげであると言うことで、怨みを鎮めようとしている。死んだ者たちの側に非があったことを説くことでその死を受け入れさせ、後白河法皇による供養を受けられることの有難さを説くのである。死者に非を悟らせることで怨みを封じる。これを法会の場における言葉で行ったのが、後白河法皇の時代の唱導であった。 上のような澄憲や弁暁の唱導が持つ特質の一つを明らかにした上で、『平家物語』との関係性についても考察した。『平家物語』はしばしば「鎮魂」の物語であると言われるが、どのような方法で死者の魂に向き合っているのか、その内実を追究していく必要がある。建礼門院関係の章段(後白河法皇が大原に隠棲している建礼門院の庵を訪問する物語)を唱導の観点から分析したところ、澄憲や弁暁といった後白河法皇の傍らで活動した僧侶の唱導が、物語の原型を形作った可能性があることを明らかにした。
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Research Products
(1 results)