2019 Fiscal Year Research-status Report
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17K02429
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
田渕 句美子 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (80222123)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 和歌 / 物語 / 女房文化 / 女性教育 / 社会教育 / 宮廷文化 / 源氏物語 / 宮廷女房 |
Outline of Annual Research Achievements |
物語和歌は、物語中の人物の会話、ないし独白として挿入されているものではなく、物語の読者、享受者に対して、ひろく開かれている独自な機能をもつ和歌である。そして同時に、その和歌は社会教育としての機能をもっており、当時の生活に必須のコミュニケーション手段である和歌の役割、表現性、機能、教育、教訓、そして人間観や世界観へ導くものである。 2019年度(令和元年度)においては、こうした物語和歌の特質について、社会教育テクストとしての特質も包含しながら、物語和歌の役割、具体相について、主たる読者・利用者・享受者である「女房」という視点から、広く捉え直すことをはかった。前年度からの研究をうけて、平安期から鎌倉期にかけて、なぜ女房による文学・文化が形成されたのか、その中で、物語、日記、歌集が多く編纂されるが、物語と物語和歌とは、女房社会において、どのように読まれ、どのように変容しつつ後世に享受されていったのか、『源氏物語』『無名草子』『物語二百番歌合』『阿仏の文』など、関連する資料を具体的に取り上げ、できるだけ包括的に考え、その結果を研究書の形で出版した。 また、こうした広く包括的な方向とは別に、女房や女性を対象にした社会教育テクストの可能性があるものとして、『百人秀歌』(『百人一首』の原型)について考察した。これは前年にも取り上げた『物語二百番歌合』と同じ編者の藤原定家の編纂になるものであり、そこにみられる女性教育テクストとしての性格を探り、論文として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の進捗状況としては、ほぼ順調に計画に沿った形で進めている。物語和歌について、いくつかの視点から知見を得ることができ、またさらに今後の可能性を示唆する新たな資料にも出会うことができた。そして、物語和歌について考える中から、より広く、女房文学・女房文化を動かしているいくつかの動力について考えるに至り、それについて、『女房文学史論』(岩波書店)という研究書を刊行した。この中には、物語和歌に関する論考が数編含まれている。それとともに、その序章部分において、より広く、物語や和歌の担い手である女房の文学形成について、広く詳しく論じることができた。これは予定よりも一年早く刊行することができたので、一部の研究成果については予定よりも先に進捗している状況である。この序章は海外でも翻訳される予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も、内容的には社会教育テクストとしての物語和歌を扱う研究計画におおまかに沿った形で進めていく予定である。中世資料の検討については今後も見直しをかけ、さらに新たな資料の発掘をめざす。調査の過程で、予定していなかった研究テーマが浮上することもあり、これらについては柔軟に対応するとともに、それを物語和歌研究として育てていくことをめざす。すでに、『源氏物語』の物語和歌に関しては、近代の歌人である窪田空穂、与謝野晶子につながる問題が発見できたので、これらの成果については、逐次、研究書、研究論文の形で刊行していく。
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Causes of Carryover |
2020年3月に、カナダのブリティッシュコロンビア大学でのコロキウムで、本研究について発表する予定であり、すべて手配していた。しかし、新型コロナウイルス感染拡大のため、リスクを避けて、急遽とりやめとした。そのため次年度使用額が生じた。今年度も海外出張して研究発表できるかどうかは不安定要素がある。海外で研究発表できない可能性はかなり高いと思われるので、その場合は、海外の研究者とのズームなどによる意見交換、ならびに最終年度における研究成果とりまとめのために、現在かなり老朽化しているパーソナルコンピュータを購入する予定である。
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