2017 Fiscal Year Research-status Report
五代目市川海老蔵の東海地域における芝居興行に関する調査・研究
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17K02470
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Research Institution | Gifu Women's University |
Principal Investigator |
木村 涼 岐阜女子大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (70546150)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 五代目市川海老蔵 / 東海地域 / 地方興行 / 芝居番付 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、五代目市川海老蔵の東海地域で行われた芝居興行の実態を探るべく、まず調査すべき関連資料が所蔵されている諸機関を『資料目録』、『自治体史』などで網羅的に把握した。その手始めとして、早稲田大学演劇博物館から関連資料の調査収集作業を行った。 リストアップした諸機関のデータをもとに関連資料を収集するために、京都学・歴彩館、京都文化博物館、桑名市博物館、三重県総合博物館、大阪府立中之島図書館、大阪歴史博物館を訪れた。これらの機関において、五代目市川海老蔵に関する東海地域における「芝居番付」をはじめとする諸資料を収集した。現在、収集してきた史資料の翻刻、内容の分析を行っている最中である。 また、本研究課題に関連して、デジタルアーカイブ学会にて「江戸時代の歌舞伎興行に関する資料デジタルアーカイブの充実を目指して」と題して報告した。三都(江戸・京都・大坂)で開催された芝居興行についての関連資料のデジタルアーカイブは充実をみせている。ところが、歌舞伎役者の地方興行に目を移せば、芝居番付や台本、木戸銭覚などの興行関係資料は該当地に多く所蔵されているにも関わらず、デジタルアーカイブという点においては進展をみせていない。学会報告では、三都の史資料が充実している演劇博物館のデジタル・アーカイブコレクションとコミュニティ(地域)アーカイブコレクションの結びつきが歌舞伎役者の地方興行研究へ及ぼす有効性について述べた。 本年度は、論文を2本刊行した。「七代目市川團十郎の旅」では、これまで論じられてこなかった五代目海老蔵こと七代目團十郎の「文政期」に限った旅及び旅興行を取り上げ、その実態を考察した。「七代目市川團十郎襲名をめぐって」では、七代目の襲名に焦点を当て、10歳という年若での大名跡襲名の顛末を、江戸社会をはじめ市川團十郎家や江戸歌舞伎の状況と鑑み合わせて考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究で取り上げる東海地域は、名古屋若宮芝居、橘町芝居や三重の古市の芝居、岐阜の伊奈波神社境内芝居、静岡の宣光寺境内芝居など、幾つかの有名な興行地が含まれている。これらの地域で開催された芝居興行については、桑名や三重、大阪の図書館、博物館などを訪れ、史資料を収集してきた。また、宣光寺や伊奈波神社を訪れ話を聞いた。所蔵されている史資料も調査し、必要な部分を複写した。こうして予定した史資料を収集してきた。 海老蔵の東海地域における芝居興行は、当初の計画通り、演劇博物館をはじめ諸機関から収集した関連資料に基づいて研究を進めている。上記興行地の史資料は大部分揃ってきており、現在、史資料の分析は予定通り進んでいる。 これまで収集した資料から、興行に関わった人々の役割など具体的に判明できそうな地域の興行もあると思われる。海老蔵の興行が東海地域の人々にどのように受け入れられ支持されたのか、さらには、地方興行のシステムと三都の興行システムとの相違、また、歌舞伎役者の地方興行が、近世後期の歌舞伎界全般にどのような意義をもたらしたのかを追究していきたい。 このまま本研究課題を継続していけば、役者の芸態論が中心の現在の近世演劇研究に対して、歌舞伎役者と地域の人々の結びつきから、地方興行を含めた演劇活動を捉えるという、より歴史的な視点からの新たな一石に成り得るインパクトのある方法論を提示できると考える。したがって、研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の本研究課題に対する推進方策は、まず、諸機関で収集した資料の翻刻、内容の分析を仕上げ、まとめることからである。次に、デジタルアーカイブ学会で得た指摘を再度検討し、論文で成果を発表していく。海老蔵の東海地域における芝居興行の解明が最終目標である。したがって、今後は残りの史資料について、諸機関を訪れ、収集して内容を分析していく。内容分析を行った史資料を、五代目海老蔵の東海地域における芝居興行を解明するという論点を明確に提示しながら、その実態をまとめ上げ、学会発表に向けての準備をする。さらに学会発表で得た指摘を再度検討し、論文で調査成果を発表するつもりである。 諸機関に所蔵されている『御用留』、『御用日記』などの藩政資料や観劇記録も、海老蔵は勿論、他の大名題の役者に関して想像以上に残されていることが予想される。海老蔵の芝居興行の解明には、それらも活用し、他の役者の芝居興行と照らし合わせながら成果を出していきたい。 本研究は、歌舞伎役者と地域の人々の結びつきの解明や史資料を用いて地方興行を含めた演劇活動を捉えるというところに独創性があると考える。この方法を用いて研究を続けていきたいと考える。 五代目市川海老蔵の東海地域における芝居興行に関する資料群を中心として、海老蔵の芝居興行が、芸態論中心であった歌舞伎視点だけではなく、19世紀の歌舞伎界全般にどのような意味をもたらしたのか、さらには、近世演劇に、あるいは芸能一般にどのような影響をもたらしたのかを、より歴史的な視点も包含して追究できるように努めていく。
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