2019 Fiscal Year Research-status Report
英仏百年戦争期における海峡横断的文学圏の形成に関する一考察
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17K02492
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小林 宜子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (80302818)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 中世英詩 / ジョン・ガワー / 書簡体詩 / 教訓詩 / 海峡横断的文学 / 中世フランス語詩 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の前半は、昨年度に未完に終わった調査(ars dictaminisの伝統とAegidius Romanusの君主論に代表される助言文学の伝統の再検証)を実施し、書簡体で書かれたJohn Gowerの教訓詩To King Henry the Fourth in Praise of Peaceのpublic writingとしての性格を、それらの伝統との関連において分析した。また、Gowerのこの詩がチョーサーの諸作品と並んで収録された1532年刊行の『チョーサー作品集』を分析することにより、Gowerの詩の教訓的意義が時代を超えて宗教改革期においても認められ、評価されていたことを明らかにした。この調査結果をまとめた論文は、2020年刊行の論文集John Gower in Manuscripts and Early Printed Books (Boydell & Brewer) に収録されている。 このほかに、本年度の当初の計画を遂行すべく、上記の詩と並んでTrentham写本に収められているGowerの仏語によるバラード連作Cinkante Baladesの分析を進めた。その際、1380年代に編まれ、フランス国内で高い人気を誇ったバラード集Livre des cent balladesとの類似性に着目し、このバラード集の執筆者のひとりがランカスター家に長年仕えたJean d'Auberchicourtの親戚にあたり、別の執筆者Jean Boucicautにもランカスター家との接点があったこと、またこのバラード集の続編を書いたOton de Gransonがヘンリー・ボリングブルック(後のヘンリー四世)に随伴して聖地巡礼を果たしていることなど、個々の歴史的事実を積み上げながら、Cinkante Baladesとヘンリーとの関わり、またその成立に至った背景を解明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和元年度の後半は、百年戦争期の海峡横断的文学圏の重要な特徴として、両国の宮廷でバラードが隆盛を極めたことに注目し、historical formalismの視座からGowerのCinkante Baladesを分析した。また、その際に1380年代のフランスで編まれたLivre des cent ballades, およびOton de Gransonによって書かれたこのバラード集の続編、さらには英仏両国の王家や貴族と親交があったChristine de PizanのCent ballades d'amant et de dameにまで考察範囲を広げながら分析を進めた。しかし、Gowerの教訓詩の宗教改革期における受容という新たなテーマに取り組んだこともあり、当初の計画に含まれていた第三の点(Charles d'Orleansのバラード連作とGowerの仏語詩との比較考察)については調査を完了するまでには至らなかった。本年度の研究の未完部分については、令和2年度に完成させ、本研究課題全体の総括を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は令和元年度末で補助事業期間が終了する予定であったが、期間の延長を申請し、承認していただいた。令和2年度においては、前年度に完了できなかった以下の調査を行い、本研究課題全体の総括を行う。 Gowerの死後、1415年から25年間にわたってイングランドの宮廷に捕虜として滞在し、英仏両言語で詩作を行なったCharles d'Orleansのバラード連作とGowerの仏語詩との比較を通じて、この時期の英仏両国の宮廷文学が双方向に影響を与え合い、文化の共有を特徴とした緊密なネットワークを構築していたことを証明する。
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Causes of Carryover |
本研究の中核を成すテーマは、14世紀の英詩人John Gowerの詩作品を収録したTrentham写本の分析である。Gower研究の拠点であるJohn Gower Societyは三年に一度、国際会議を開催しており、次回は2020年6月29日から米国インディアナ州で開催される予定であった。研究代表者は、本研究の総括の一環として、その会議で口頭発表を行う予定であったため、令和元年度の残額を海外出張旅費として使用したいと希望し、補助事業期間の延長承認申請を行った。しかしながら、新型コロナウィルス感染拡大のため、上記学会は中止が決定され、本研究についても、計画の変更を余儀なくされている。したがって、次年度使用額については、令和元年度の研究の未完部分の完成と、本研究課題の総括のために使用したいと考えている。
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