2018 Fiscal Year Research-status Report
19世紀英米作家のホームの感覚と太平洋表象についての研究
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17K02496
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
山本 卓 金沢大学, 学校教育系, 教授 (10293325)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 太平洋表象 / 英語圏文学 / 植民地主義 / 宣教師 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度に収集した宣教師関連の資料の検証とともに、平成30年度の研究は、1880年代から1920年代の太平洋作品の収集及び読解を中心におこなった。研究計画の通り、核となる作家にR. L. スティーヴンスンを据え、近接する領域を描いたジョゼフ・コンラッド、20世紀初頭に太平洋世界を旅したサマセット・モームに至るまでの作品群を、ホームの意識の観点から検証した。ここで浮上してきたのがルイス・ベックである。スティーヴンスンが逝去した年にデビューしたベックは、リアルな太平洋世界を描くことで一躍人気作家となり、コンラッドが羨望のまなざしを送るほどの商業的成功を収めた。オーストラリア国立図書館とニューサウスウェールズ州立図書館への訪問は、国内では入手しにくいベックの作品収集において大きな収穫があった一方で、彼の直筆の手紙からベックのホームの感覚を分析することができた。しかしながら、オーストラリアに生まれ、太平洋世界を放浪し、作家活動の拠点としてヨーロッパを選んだ後、晩年はシドニーに戻るという複雑な軌跡を考慮するとき、彼のホームの意識を地理的な要因と結びつけるのは単純すぎるように思われる。これについては次年度の研究でさらに検証する。他方、ベックの成功と急速な失速に、彼が描いた太平洋像と、当時の読者が抱いたものとの近接性と乖離の問題が浮上する。18世紀後半から蓄積された宣教師による太平洋世界の紹介、19世紀中盤以降において少年向け冒険小説の舞台となった太平洋像、さらにはスティーヴンスンによる南海物語などによって、ヨーロッパの人々にとって太平洋はもはや未知の領域ではなかったにもかかわらず、殺人や異人種間交渉といったグロテスクな描写が好評を得たことは注目に値する。これに関しては、当時の出版社による売り出し方も大きく関わってくると考えられ、次年度の研究の課題の一つとする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ベアトリス・グリムショウの検証についてはやや遅れてはいるものの、ルイス・ベックの著作の読解後、周辺作家との関係や彼を取り巻く状況を視野に入れて彼のホームの意識を検証できたことで、全体的な進捗状況は研究計画とおおむね合致する。
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Strategy for Future Research Activity |
グリムショウについては遅れがあるものの、当初の研究計画通り過去2年間の研究の総括をおこなう。
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Causes of Carryover |
図書館相互貸借や電子テキストへのアクセスによって、書籍代が当初の予算よりもかなり低くなった。また、資料の整理補助や消耗品も発生しなかったため、残額が生じた。 今年度の残額については、次年度の資料の整理補助と消耗品・物品に充当する。次年度には国内での学会発表の予定が複数あり、そのための旅費、また国際学会での発表も計画中で、その渡航費として次年度予算と合わせて使用する。
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Remarks |
英語版授業テキストの一部("English Literature (Britain): Reading the Late 19th-Century British Adventure Novel")を執筆
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