2018 Fiscal Year Research-status Report
シェイクスピア劇の小唄―テクストに埋め込まれた聴覚的連想イメージ・コード
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17K02514
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
中野 春夫 学習院大学, 文学部, 教授 (30198163)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | シェイクスピア劇 / 小唄 / バラッド / エリザベス朝社会 |
Outline of Annual Research Achievements |
二年目の平成30年度はシェイクスピア劇の小唄に対する従来の解釈を可能な限り収集したうえで、(3)エリザベス朝イングランド社会の諸制度を背景としたシェイクスピア小唄の歌詞の再検討の作業を重点的に行った。成果のチェックを行うとともに、新たな情報を得る場として定期的に研究会を開催4回開催し、当該年度に得られた成果を論文と学会発表によって公表した。二年度の具体的な作業は以下の通りである。 シェイクスピア劇小唄の歌詞の再検討 シェイクスピア時代のイングランド社会は93~96%の男女が45歳までに結婚し、教会法に「未婚者淫行罪(fornication)」が存在していた社会であり、一連の浮浪取締法によって住所不定や不就労、引籠りが犯罪行為と認定され、さらに労働実質賃金も過去700年間の最低水準に落ち込んだ時代である。今日とシェイクスピア時代とでは社会的な規範のあり様が著しく異なり、したがってライフスタイルはもちろんのこと、不安や恐怖、欲望の対象と質にもかなりの違いが認められる。ところが演劇のコミュニケ―ション回路において小唄は独白と同様に観客への直接回路を利用するために、小唄の歌詞の意味はどうしても観客の時代の社会背景から解釈されがちであり、シェイクスピア批評における小唄の解釈にも同様の傾向が認められる。本研究の二年目はシェイクスピア劇の小唄の歌詞が同時代の観客にとってどのように解釈されたかを同時代の文化・社会背景から明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究はこの2年間にシェイクスピア劇の小唄と同時代の大衆歌謡文化との関係を明確化するとともに、元歌のバラッドがシェイクスピアによってどのように変えられていたのか、その翻案化を分析してきた。歌詞だけが商品となるバラッドでは識字率の関係(1600年における男性の推定識字率は40~60%、女性は約10%)から男性が主要な購買層と想定されざるを得なかったことは理論上明らかである。特に2年度はは元歌のバラッドが男性のための商品であったことを確認したうえで、もともと男性版の失恋怨み歌や男性向けの猥雑求愛唄、男性アウトローの愚痴小唄であったものがシェイクスピア劇では劇作品のテーマに合わせてどのようなものへと翻案されるのか、小唄の演劇ヴァージョンにおける翻案過程を網羅的に解明しえた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画を順調に実施できており、予想以上の研究成果を上げることができている。したがってこれまでの研究方針に従って本課題を遂行していきたい。
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Causes of Carryover |
次年度に一次資料のまとまった購入が予定されているので、129,595円の繰越金を残した。
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Research Products
(2 results)