2017 Fiscal Year Research-status Report
The interrelationship between the patriotic consciousness and the reconstruction of indigenous language and culture in Irish literature since the 17th century
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17K02543
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
池田 寛子 京都大学, 人間・環境学研究科, 准教授 (90336917)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | アイルランド文学 / 英語文学 / アイルランド語 |
Outline of Annual Research Achievements |
アイルランド語使用地区で現地調査を行い、トリニティ・カレッジ・ダブリンおよびアイルランド国立図書館で資料収集を行った。詩人マイケル・ハートネット直筆の詩の草稿、アイリッシュ・タイムズの関連記事、アイルランド語のスウィーニー伝説関係の翻案作品とそれについての論文などを収集した。今回手に入ったのは主にAustin Clarke, Tom MacIntyre, Derek Mahon, Brian Friel の作品関連の文献である。 アイルランド文学における土着の伝統の変容の意味を分析し、あるべき「愛国」の形を模索するアイルランド文学者たちの創造的な試みの意義を解き明かすという研究目的に沿った内容で、二つの学会で成果を報告した。IASIL-JAPAN年次大会では、マイケル・ハートネットの英語による俳句の底流にあるアイルランド語の伝統とタオイズムの思想について分析した成果を報告した。アイルランド研究年次大会においては、共通テーマ「ケルト文化をとらえる - アイルランドからの視点」による報告一環として「現代アイルランド文学におけるスウィーニー伝説の再生と変容」と題した発表を行った。二つの学会報告に加筆修正し論文を執筆した。古期アイルランド語の伝説「スウィーニーの狂気」へのアイルランド作家たちの関心には、愛国的な意識、もしくは、ナショナリズムをどう考えるかについての立場が直接的、間接的にかかわっている。二つの世界の間で引き裂かれた王スウィーニーの姿に作者自身あるいはアイルランド人の運命が重ねられた。このことは今回分析した作品の核心部の形成に関わっている。スウィーニー伝説が新たな創造を促し、二つの言語の間で引き裂かれた状態に活路を見出すための原動力になってきたことの重要性を指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定通りのアイルランドでの調査を行い、資料を収集できた。日本語で執筆し終わった論文については、加筆修正する形で英語版の作成を開始し、英語著書の一部に組み込む予定で執筆をつづけている。シェーマス・ヒーニーの翻訳作品「さまよえるスウィーニー」の分析に基づき、ヒーニーとアイルランド語の伝統の関係について検討し、その成果を元に論文「失われてなお生きる世界―『さまよえるスウィーニー』とシェーマス・ヒーニーのアイルランド語の死への挑戦」を執筆した。こちらは共著者の都合で出版が遅れているが、今年中の出版は間違いないため、問題はない。詩人ヌーラ・ニゴーノルとスケジュールが合わず、私のアイルランド滞在時期には面会が叶わなかったが、29年度に必ず会わなければ研究が遂行できないわけではなく、メールなどでのやり取りで補える部分もあるため、特に研究計画に支障は生じていない。
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Strategy for Future Research Activity |
土着の伝統の再構築と愛国意識の関連性を分析するにあたり、古期アイルランド語の伝説「スウィーニーの狂気」の翻案作品を網羅的に視野に入れ、徹底的に追及することで、一貫性を保ち、かつ多角的に研究を推進する。 アイルランド語文学の翻訳作品を発表している作家の中には、独立運動の流れを引く従来の愛国意識やナショナリズムを否定し、また必ずしもアイルランド語をアイルランド人のアイデンティティの要だとはみなしていないケースもある。アイルランド語へのこだわりが薄いように見える作家の「スウィーニーの狂気」翻案作品として、Dermot Bolgerの小説A Second Life, Paula Meehanの戯曲Mrs. Sweeney に注目する。 30年度は、詩人マイケル・ハートネットがアイルランド語による執筆に取り組んだ10年間の意義を追求し、英語とアイルランド語のバイリンガル作品の綿密な分析に力を入れる。詩の解釈に困難が生じた場合は、ハートネットと親しかったヌーラ・ニゴーノルの助言を仰ぐ。 17世紀のアイルランド語文献は読解に時間かかるため、京都アイルランド語研究会で毎回発表する予定を汲み、集中して読解する機会を確保する。
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