2019 Fiscal Year Research-status Report
The interrelationship between the patriotic consciousness and the reconstruction of indigenous language and culture in Irish literature since the 17th century
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17K02543
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
池田 寛子 京都大学, 人間・環境学研究科, 准教授 (90336917)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | アイルランド文学 / 英語文学 / アイルランド語 |
Outline of Annual Research Achievements |
ダブリンのトリニティ・カレッジ・ダブリン図書館、アイルランド国立図書館、Irish Traditional Music Archiveで資料収集を行った。10月のIASIL-Japan年次大会のシンポジウム ‘Crossing/Negotiating Borders: gender and nation in Ireland under the Union’ での発表のため、メアリー・バルフォア(c.1778-c.1819) の詩集 Hope (1810)を精読し、バルフォアによるアイルランド語の詩歌の英訳と原作を比較するためにMusic Archiveを活用した。詩と訳詞に見られる愛国的な英雄と詩人像の検討を行った結果、バルフォアは焦点を当てているのはアイルランドのために命を捧げる英雄ではなく、古来の文化を守る詩人像であることが明らかになった。背景にはイギリスからの独立を目指した1798年の蜂起の失敗がある。これについて論文Reimagining Hero, Bard, and Erin: Mary Balfour and the Irish Song Traditionとしてまとめた。 2019年3月国際学会の発表原稿The Allurement of Death and Shadow in Nuala Ní Dhomhnaill’s Cailleach Poemsを大幅に加筆修正し、論文として完成した。アイルランド語詩人ヌーラ・ニゴーノルの詩におけるCailleach の意味を多角的に検討し、第二節では「愛国心を掻き立てる物語」として18世紀以降最も影響力をもったアイルランドを象徴する女性の扱いを分析した。アイルランド語の伝統、文化遺産、培われてきたシンボルからインスピレーションを得た上で、それを盲目的に受け入れるのでなく再構築しようとした顕著な例である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1922年の部分的独立に留意し、19世紀以降の英語とアイルランド語の文学作品における土着の伝統の再構築と愛国意識の関連性を分析する計画の一環として、1925年に出版されたAustin Clarkeの詩篇 ‘The Frenzy of Suibhne’ を詳細に分析し、『英文学評論』に研究ノート "A Submerged Self: Austin Clarke’s ‘The Frenzy of Suibhne’" として発表した。 海外の出版社 (Peter Lang) で共著の論文集を出版するために編者として作業を進め、この研究計画の成果の一部として自らの論文を掲載する予定だったが、コロナ19の影響でヨーロッパ全般が大打撃を受け、印刷作業が遅延している。3月後半には最終版のPDFが完成しており、本そのものは2019年度内の完成という目標を達成したが、印刷物をまだ手にできていないため、2019年度の成果として記載することは控える。
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Strategy for Future Research Activity |
A History of Modern Irish Women’s Literatureの書評の依頼を受け、この歴史書を精読した結果、本研究に資する情報が入手できたため、これを研究を推進するために活用する。留意したいのは、21世紀以降のCeltic Tigerと呼ばれるバブル経済の愛国意識への影響である。経済的繁栄は、ナショナリズム・愛国の歴史を過去の遺物として切り捨てる傾向を加速した。この流れで過去のすべてが否定的にとらえられることへの反動として、アイルランド作家の間でアイルランド語文学や女性たちが書き綴ってきた作品を再評価する動きが出たことは重要である。20世紀後半以降についての研究を進めるにあたっては、アイルランド語と英語の二つのバージョンを持つ劇An Triail /On Trial (1964) を視野に入れることも有益である。「アイルランド語」の持つイメージ、「アイルランド語で書く」ことの「愛国的」意義は近年大きく変化していることに注意して研究を進める。
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Causes of Carryover |
コロナ19の影響で東京での研究会への参加ができなくなったため、旅費が残った。
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