2018 Fiscal Year Research-status Report
LadyGregory and the Literary Salons
Project/Area Number |
17K02552
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Research Institution | Edogawa University |
Principal Investigator |
海老澤 邦江 江戸川大学, メディアコミュニケーション学部, 教授 (90413046)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | Lady Gregory / 18世紀 女性と文芸活動 / イギリスとアイルランド / 文化比較 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度(平成30年度)は、特に18世紀イギリス・アイルランド・フランスのサロン社会の基礎知識を獲得し研究基盤を固めるために、関係文献の解読を中心に行った。その際に使用した、主要文献は以下の通りである。 1.Literary Salons Across Britain and Ireland in the Long Eighteenth Century (Amy Prendergast, Palgrave macmillan, 2015) 2.Early Women Writers: 1600-1720 (ed. By Anita Pacheco, Addison Wesley Longman, 1998) 3.Anne Finch and Her Poetry (Barbara McGovern, the University of Georgia Press,1992) 4.The Poetry of Anne Finch (Charles H. Hinnant, University of Delaware Press, 1994) 5.The Poems of Anne Countess of Winchelsea (ed. By Myra Reynolds, University of Chicago Press, 1904) 6.公共性の構造転換 (ユルゲン・ハーバーマス、細谷貞雄・山田正行訳、未来社、1994年)7.ヨーロッパのサロン (ヴェレーナ・フォン・デア・ハイデン=リンシュ、石丸昭二訳、法政大学出版局、1998年)8.近現代イギリス女性史論集 欲張りな女たち(伊藤航多、佐藤繭香、菅靖子編著、彩流社、2013年)9.レイディ・グレゴリ アングロ・アイリッシュ一貴婦人の肖像 (杉山寿美子、国書刊行会、2010年) 今年度も研究遂行に必要な文献の解読を行う。 学会活動では、2018年12月に日本イェイツ協会主催の国際イェイツ協会の大会が京都大学で開催された。2日間で200名ほどの参加者があり、日本ならびに世界各国の研究者たちとの研究上の意見交換、研究成果発表があり、イェイツの戯曲の能・狂言の公演があった。この公演に関しては、2017年に茂山千五郎氏たち狂言士らによるアイルランド公演に端を発した、イェイツの戯曲と日本の古典芸能のコラボレーションは特に注目に値するものとなった。海老澤自身もホスト国の協会役員として大会運営に協力した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究開始時、健康上の理由から計画された研究開始とその進展が大幅に遅れたが、2018年度からは、計画の修正の必要があるものの、当初の計画に沿って研究再開が可能となった。ヨーロッパ社会におけるサロンは、ヨーロッパの歴史・伝統文化・近代社会の進展と不即不離の関係にある。その成り立ちや社会への影響力などにも目を配りながら、サロンの活動の内容とその役割を精確に理解する必要がある。これらに関する専門文献は、英語圏には豊富にある。しかし、限られた研究時間に解読可能な文献は、比較的現代の、入手しやすいものに限られる。まず、こうした文献から基本的な知識を獲得。また、女性による文芸活動は、ヨーロッパの英国においては古くは17世紀後半、ようやく18世紀に入ってから顕著に認められ始めるが、現代の研究対象として評価を得た文筆家(作家、詩人等)は限られている。 前ロマン派の先駆的詩人として評価された、Countess of Chilsea,Anne Finchの著作集の改訂版が昨年発刊されたこともあり、新たな視点から、この18世紀の女性詩人の業績を再検討を進めている。この考察から明らかに示されることは、文学表現が単に社会的ステータスの高さと結びつくだけでなく、サロンに所属の有無、秀でた表現者がサロンに所属することでそのサロンの著名度や格などを規定するということである。これは、個人の文学的天分を評価する現代とは異なり、サロンがひとつの秀でた表現者を誕生させる場、教育の場であると同時に、それを実現することでサロンの価値を高めるという双方向性の力関係が働いていたと言える。こうした双方向性の力学を包含している点を考えると、現代の日本の教育の現場を想起させるのではないだろうか。 こうした研究成果を論文にまとめようと試みたが、執筆の時間的余裕が十分でなく完成までに到らなかったが、研究ノートの体裁でほぼ完成させた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度(2019年度)は昨年度(2018年度)に引き続き、18世紀におけるサロン活動に関する知識等を深化することに努めたい。昨年度、研究ノートとしてほぼ完成させた内容をさらに深く検討・深化し、論文として完成させたい。 19世紀以降、女性の文芸世界での活躍は目覚ましいものがあるが、その礎石となった18世紀の研究については日本においては乏しい。それを補うためにも、特に18世紀の英国の女性文筆家の活動とその社会について、さらに詳しく研究を進める予定である。その一方で、Lady Gregoryの著わした「アイルランドの神話・伝説」全編の日本語訳を行う。彼女の著わした「物語」は、その斬新さと興味深さに比して、日本では適切に扱われていないように思える。少なくとも、入手しやすく理解しやすい形で日本に紹介されるのが待たれる著作であろう。将来的な研究の進展も考慮に入れ、研究の同時遂行としても日本語訳をさらに進めたい。 また、Lady Gregoryの戯曲の解読にも努める予定である。彼女の戯曲の特長は、アイルランドの庶民の生活をテーマにした点にある。こうした視点は、日本においてはプロレタリア文学に見られるものだが、Lady Gregoryの作品は、その分類に規定されることはない。むしろ、アイルランド庶民を政治的アピールとは無縁に、生の実相を描いたリアリズム的な視点から評価されている。彼女の著作に関して、日本において十分な批評検討をされているとは言えない。それは、現代において、彼女の戯曲が舞台で演じられる機会がないという事実がある。しかし、著作ならびに批評や専門研究書の読解によって、戯曲の鑑賞が可能であろう。文献研究から、本研究のテーマに従って、作品研究を行い、その成果を論文にまとめるつもりである。 さらに、学会等の活動についても、バックアップ等も含め、学会運営等の活動も積極的に行う予定である。
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Causes of Carryover |
昨年度の報告書に報告した通り、予期せぬ健康上の理由により研究開始が大幅に遅れたことから、科研研究費の使用額にも影響が及んだためである。しかし健康回復とともに、研究活動の再開も順調に行っている。昨年度は、活字、印刷等による業績成果の発表は時間的理由から断念せざるをえなかったが、研究成果の蓄積は確実行われており、今年度は論文等によりその成果を発表する予定である。今年度は、より充実した研究成果に仕上げるためにさらに関係文献の入手、読解に力を注ぐ予定である。その他、学会や研究会等の運営ならびに活動にも尽力したい。
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