2019 Fiscal Year Research-status Report
LadyGregory and the Literary Salons
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17K02552
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Research Institution | Edogawa University |
Principal Investigator |
海老澤 邦江 江戸川大学, メディアコミュニケーション学部情報文化学科, 教授 (90413046)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 英国18世紀 / 文芸サロン / 女性詩人 / ジェンダー / コミュニケーション |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、英国「サロン」文化誕生以前と女性による文学・文筆活動を明らかにするために、スチュワート朝からオーガスタン朝の英国の社会を背景にウィンチルシー伯爵夫人アン・フィンチの作品の検討を行った。スチュワート朝の崩壊から新しい王政への移行期には、文化を創生する「サロン」と認められる人的交流はいまだ見当たらないが、女性の書き手が散見される。しかし、女性による作品は、必ずしも好意を持って受け取られていなかった。むしろその評価は低かった。そうした社会的認知度の低い環境にも関わらず、その才能の頭角を現したのが、ウィンチルシー伯爵夫人アン・フィンチであった。後にワーズワスからロマン派の先駆的存在とみなされるのだが、18世紀を代表する文人、特にアレクサンダー・ポープらに評価される。 20世紀初頭にフィンチの作品は、『アン・フィンチ作品集』としてシカゴ大学から出版されるようになる。スチワート朝からオーガスタン時代へと急激な変化を経験する英国社会を反映するかのように、フィンチの扱うテーマはさまざまであった。その中で特に、「書く」行為が書き手と社会がどうのようにとらえていたかに絞って、作品を鑑賞ならびに検討・考察を試みた。女性が文学表現する意味、その一方でその行為に対する女性自身と社会の批判が混在する時期であった。その不安定な時代において、女性による文学表現の力量と価値が認められ、次世代に続く後継者へと受け継がれる過程の一端の考察を試みた。その研究内容は、以下のように論文1本と研究ノート1本としてまとめた。
1、論文『18世紀英国「サロン」文化の芽生えーウィンチルシー伯爵夫人アン・フィンチを起点にしてー』(『江戸川大学紀要』第30号 pp.431-440、2020年3月) 2. 研究ノート『「サロン」文化と女性詩人の誕生』(『江戸川大学紀要』第30号 pp.537-540、2020年3月)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究が採択された時期に、本研究者の予期しなかった、健康上の事由が発生したため、2018年度までは応募時点で企図していた計画から若干の遅れが生じていた。 しかし、2019年度において、かなり健康上の問題が解消し、研究上必要とする文献等の入手も順調に行われた。また、外部で開催された研究会や学会参加も実施できたので、学会活動を通じての情報収集や情報交換も活発に行われた。こうした物理的、知的環境が整ったため、個人活動としての研究活動(文献読解・研究成果執筆)に集中できた。その結果、研究論文1本、研究ノート1本を成果として提出をみた。だが、口頭発表等が実施されなかったのは、本務校の教育上のスケジュールと学会等のスケジュールの不適合のために、口頭発表機会の場に恵まれなかったためである。他にも、英国での出版予定の変更や、それ以外の何らかの理由により、購入予定であった文献が入手できないなど、外的物理的事由により、基礎文献入手が果たせなかったので、研究の推進に若干の影響が出た。 2020年度も、昨年度同様の研究活動を行うことを望んでいる。18世紀の文化・文芸事情、女性の書き手と社会の視点から、女性の書き手の隆盛と進展をさらに明らかにするとともに、当時のアイルランドの文芸活動に目配りする予定である。夏前には、英国18世紀のモンタギュー夫人に関する論文を作成し、研究計画が当初企図した予定に沿うことができるように、この先も円滑な研究遂行に努めたい。しかし、この春先から明らかになった新型コロナウィルス感染症問題が生じ世界的規模に拡大したため、文献購入、文献読解、論文等の執筆等を完遂するための時間的余裕が減少し、残念ではあるが計画した研究活動と内容に影響が及ぶことが予想されるが、今年度の研究成果を活字ベースで発表できるように最大限の努力を重ねるつもりである。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、英国「サロン」文化とコミュニケーションの拡大の視点から研究を推進する予定である。文学評価の高いアン・フィンチ以降、英国18世紀の「サロン」を主宰する女性が次々と現れる。その中でも最も影響力が及ぼしたメアリ・モンタギュー夫人を中心に以下の内容について検討を試みる。その活動ならびに人的交流と社会的影響力、サロンを代表する文人とモンタギュー夫人との相互影響、その作品を鑑賞し、時代を牽引した要因と要素を明らかにする。 また、この時期から、発表される作品は、そのジャンルの多様性に特色づけられる。たとえば、詩から始まり、戯曲、小説、エッセイ、旅行記、書簡などが挙げられる。つまり、女性自身の活動範囲の拡大、それに従って多様な経験と教育の充実、多様な人々との交流、表現の自由が獲得されていった社会の変容と密接に関係しているであろう。 今年度は、モンタギュー夫人の業績を中心に、「サロン」文化の拡大について、作品ならびに作家について掘り下げる予定である。また、こうした「サロン」から生み出される作品群の中でも、戯曲が果たした役割を明らかにしたい。エリザベス朝に果たした戯曲の役割と18世紀「サロン」で果たされた戯曲の役割は明らかに異なる。その視点を一つの仮定として、戯曲が限られた集まりのエンターテイメントだけではなく、近代に続く新しい文化の拡大(社会階層の超克、活字による言語表現の超克、新しい交流の場)の発展に寄与したのではないかと私は考える。この考察から、女性の優れた書き手が誕生する礎が、18世紀中庸に確立し、文化表現の発露としての戯曲が、その国や地域の文化風土を反映し、かつその象徴にまで発展する経緯を考察する。そして、確固と培われた流れが19世紀に受け継がれ、隣国アイルランドの文芸復興運動に影響を及ぼしたのではないかと考えている。こうした仮定を抱き研究を進めたいと思っている。
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