2017 Fiscal Year Research-status Report
語られぬ収容所の集団的記憶を再生する日系アメリカ作家のポスト・メモリーの可能性
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17K02562
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
牧野 理英 日本大学, 商学部, 教授 (10459852)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | アメリカ文学 / 日系アメリカ人 / ポストメモリー / 収容所 / 第二次世界大戦 / 原爆 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、第二次世界大戦中強制収容所で過ごした日系アメリカ人を親にもつ作家が、親の語らない収容所の集団的記憶をどのように当時の手紙や写真などで再生し、自身の作品に投射していったかというポスト・メモリ―の過程を考察するというものである。そしてその歴史の再生過程において、日系作家が迫害に対するプロテストとは異なったナラティブを創出していることを証明する。 本研究は二段階となっている。まず1)収容所内に残された文献を閲覧、解読し、体験者の親族とのインタビューによる取材を行う。そして2)子供の世代の日系作家がどのようなアメリカ文学に影響を受け、それらをどのように自分の作風に組み込んでいったかを考察することで、今日のアメリカ文学研究に一石を投じるというものである。 本研究の独創性は、私たち日本人に人種的に最も近いにも関わらず、心理的には最も遠い日系アメリカ人の自我形成の過程をたどることで、アメリカという国家を外側から見つめる視点が収容所という集団的記憶によって形成された過程を学ぶところにある。親が決して語ろうとしない収容所が、未知の異文化性をはらむものとして自身の日系としてのアイデンティティーにくみこまれてしまっている――しかし同時にこうした状況は、彼ら特有の文学的ナラティブが生まれる機会であるとも考えられる。 29年度の研究実績としてはハワイの日系アメリカ作家ジュリエット・コーノに関する論文を共著で出版した。コーノの両親は収容所を経験していないが、彼女の詩に収容所に関するものがあり、これはポストメモリーの範疇にある文学作品と思われる。また第二次大戦における広島の原子爆弾を扱った『暗愁』という作品に関しても、この領域に属するものとしてこの論文で取り扱った。加えて、ポストメモリーに関するテーマを基に学会発表を4回行った(一点は国際学会、その他は日本でのシンポジウム等である)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度に関する実績が、論文一本、書評一本、研究発表4回であり、研究は順調に進んでいると思われる。これ以外には日系アメリカ作家カレン・テイ・ヤマシタの作品の教授法(Approaches to Teaching the Works of Karen Tei Yamashita)に関する英語論文がMLAから31年度に出版予定であり、現在校正が最終段階になっている。またヤマシタの作家論に関する英語論文は、原稿がすでに完成している状態である。 まだ単著の下書きは終了していないが、現在のところ研究対象となる作家との面会、作家の作品の全般を論じた論文を発行することはできているため、来年度と再来年度にかけて下書きを完成させる。
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Strategy for Future Research Activity |
30年度、31年度にかけては、単著となる本の下書きを終了させる。扱う作家は日系作家のみになるが、現在考えているのはアメリカだけに限らず、英語圏の日系作家をも対象にすることにしたい。これは第二次世界大戦の収容所を中心的テーマに保ちながらも、この戦争の集団的記憶である原爆や、日本の敗戦などを、50年代に生まれた日系英語圏作家がどのようにみているのかという比較対象を検討するためである。 具体的には近年ノーベル文学賞を受賞した日系イギリス作家、カズオ・イシグロも研究の範疇にいれる。理由としては第二次世界大戦における日本の敗戦を扱った作家として、ポストメモリーのテーマを十分に取り入れていると思われるからである。またハワイ出身のジュリエット・コーノも収容所は経験していないが、そのことを作品に書いているため、ポストメモリーを扱った作品の対象として著作に組み入れる予定である。
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Causes of Carryover |
29年度3月にアメリカ合衆国カリフォルニア州にあるUCLAの図書館Charles E. Youngにおいて、文献収集する時間をとることが許されたため、計画を一部変更し、この時期に渡米することになったため。
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