2019 Fiscal Year Research-status Report
語られぬ収容所の集団的記憶を再生する日系アメリカ作家のポスト・メモリーの可能性
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17K02562
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
牧野 理英 日本大学, 商学部, 教授 (10459852)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | アメリカ文学 / 日系アメリカ文学 / 収容所 / 日本の敗戦 / 第二次世界大戦 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、第二次世界大戦中強制収容所で過ごした日系アメリカ人を親にもつ作家が、親の語らない収容所の集団的記憶をどのように当時の手紙や写真などで再生し、自身の作品に投射していったかというポスト・メモリ―の過程を考察するものである。そしてその歴史の再生過程において、日系作家が迫害に対するプロテストとは異なったナラティブを創出していることを、その作品から証明する。 2019年4月から2020年3月までの研究業績は、共著1本、研究発表2本(海外発表)、そして国際シンポジウムの司会1本である。まず共著は「収容所をめぐる3つのテキスト:カレン・テイ・ヤマシタの『記憶への手紙』におけるポストコロニアルポリティックスの攪乱」を2019年9月に、伊藤詔子、一谷智子、松永京子編で彩流社から出版した。また2019年6月2日に第53回アメリカ学会国際シンポジウムで ”Routes to Internment:Disrupting Subaltern Representations of Japanese Americans in Karen Tei Yamashita's Works.”を発表。この発表ではヤマシタの収容所に関する小説の分析を行った。まだ同年9月にはアジア系アメリカ文学研究会国際フォーラムにおいて司会をした。翌年の2020年2月4日、神戸大学とハワイ大学協賛の国際シンポジウムでゲストスピーカーとして“Juliet Kono and Her Local Hawaii: Glocalism in Tsunami Years”をThe 4th HOKU Symposium for Advanced Interdisciplinary Research Collaboration between Kobe University and University of Hawaiで発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究はおおむね順調に進展しているが、以下がその理由である。 2019年度は3月までに本研究を基にした研究書『抵抗と日系アメリカ:その敗北と収容経験をめぐって』(仮題)の下書きを完成させるという目的があり、現在のところ結論部を除いておおむね完了している状態である。また出版社、三修社との連絡もつき、現在2020年3月出版に向けての交渉が成立している。またジュリエット・コーノの詩集Tsunami Yearsの翻訳の下訳が完成し、2020年に『ツナミの年』として10月に発行予定。出版社は小鳥遊出版社に依頼し、これも了解ずみである。また現在の時点で、小野節子(アメリカで活躍したビジネスマンで芸術家、オノ・ヨーコの妹)の 1972年にジュネーブ大学大学院で執筆した博士課程学位論文を翻訳中であり、現在一章(第二章がまだ終わっていない)を残してほとんど下訳が完成している状態である。 当初の目的以上に本研究に関わる作家、理論家の翻訳を任されたことから、このまま順調に進めばかなり本研究にとって恵まれた環境が整ったといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
現在研究書出版の最終段階にきており、出版社(三修社)も決定ずみ。下書きは本年度秋に完了する予定である。すでに序章は出版社に提出済み。また小野節子の博論の翻訳に関しては、出版社は小鳥遊出版から2021年に出版予定。小野氏の博論にはフランス語が使用されていることもあり、フランス語に関しては、田ノ口誠悟氏(現在武蔵野美術大学の非常勤講師)に依頼。現在田ノ口氏の部分は第4章を残しほとんど完了ずみとなっている。 今後の研究の推進方法であるが、ジュリエット・コーノと小野節子の翻訳をベースに学会発表をし、さらに研究書にこれらの作家、理論家の意見を組み入れたいとおもっている。加えて現在の新型コロナウィルスの状況が沈静した際には、コーノ、小野両氏を日本にお呼びし、講演会を開いていただく予定である。また本年度に講演会を開催する際には状況により、ウェッブ会議のようなものにして講演会に代わるものを予定することも考えている。
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Causes of Carryover |
本年度に関しては研究書を『抵抗と日系アメリカ:その敗北と収容経験をめぐって』(仮題)を出版するため、その出版費用として次年度全額を使用する予定である。三修社に相談したところ、研究書単著出版には100万円相当が予想されるため、いままで相当な理由がない限り、使用を控えていたことは事実である。また今回の新型コロナウィルスの件もあり、海外、および国内会議における出張が2月のハワイを最後に今年度に関しては中止、およびウェッブ会議となるため、その旅費等はすべて出版費に回すことになる。したがって現在において最終年度である本年度3月までに残額をすべて使用する計画となっている。
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