2021 Fiscal Year Research-status Report
語られぬ収容所の集団的記憶を再生する日系アメリカ作家のポスト・メモリーの可能性
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17K02562
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
牧野 理英 日本大学, 文理学部, 教授 (10459852)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 日系アメリカ文学 / 第二次世界大戦 / 抵抗 / 日系収容 / 日本の敗北 / ポストメモリー / カレン・テイ・ヤマシタ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、第二次世界大戦中強制収容所で過ごした日系アメリカ人を親にもつ作家が、親の語らない収容所の集団的記憶をどのように当時の手紙や写真などで再生し、自身の作品に投射していったかというポスト・メモリ―の過程を考察するというものである。そしてその歴史の再生過程において、日系作家が迫害に対するプロテストとは異なった抵抗のナラティブを創出していることを証明する。本研究は二段階となっている。まず1)収容所内に残された文献を閲覧、解読し、体験者の親族とのインタビューによる取材を行う。そして2)子供の世代の日系作家がどのようなアメリカ文学に影響を受け、それらをどのように自分の作風に組み込んでいったかを考察することで、今日のアメリカ文学研究に一石を投じるというものである。 日系文学研究が他のエスニック文学研究と異なるのは、戦争記憶である収容経験に対する日系作家の特異な歴史的視点による。日系収容所の記憶は、様々な形で不可視化される操作がなされている。戦後50年初頭にかけて、アメリカ政府側だけでなく日系集団内でも収容所の史実が語られることがなかった事態は「集団的記憶喪失状態」と言われていた。日系収容をなかったものにするというアメリカ政府側の思惑もさることながら、多大な被害をうけた日系共同体内でさえ、その迫害の歴史を「恥」とみなし、次世代に語り継ぐことを拒んでいたのである。しかし同時にこの意図的に抹消されつつあった収容所の記憶は、収容者を親とする、および収容所で生まれ育った日系作作家にとっては特異な修辞法を作り上げる機会にもなりえたといえる。 最終年度である21年度の成果は、研究発表5本、編著1本 共著2本(内一本は英語論文)、そして単著一冊である。単著は、日本大学文理学部出版助成金と共に『抵抗と日系文学:日系収容と日本の敗北をめぐって』を三修社から2月に出版した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウィルスの世界的感染拡大により、海外渡航が困難となり、アメリカへの入国が難しくなった。その結果カリフォルニア大学やワシントン・D・Cの国立国会図書館を利用することができなくなり、資料収集に時間がかかり、単著出版の時期に多少影響した。 一方学会発表等に関してはZOOM で行うことで、研究者同士の交流が今まで以上に広範囲において可能となり、対面ではない形で面会することがかなわぬ場所にいる研究者と個人的に知り合う機会が増えたのも事実である。これにより、アメリカやブラジルの図書館や資料館に保管されている手書きの原稿等は、その場にいる研究者に依頼することで手にいれるという方法を得た。 実際にその場へ赴くことを考えると手間のかかる作業になるが、コロナの感染拡大によって、今までにはない資料収集の方法を模索するよい機会になったといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、渡航の条件が緩和され、本年度に関しては、サンタクルスに在住のヤマシタやハワイ在住のコーノに面会することが可能となる。またアメリカの図書館、資料館にも実際に出向き、そこでしか手に入らない文献(戦時中の手書きのものであったり、マイクロフィッシュ化されていないもの)を入手する。また可能であるならば、ブラジルの日系コミュニティにも出向き、アリアンサ地区の弓場農場内の資料館にも足を運ぶ予定である。 昨年まで海外渡航が困難であったことに対し、牧野は当初の研究計画を多少変更せざるおえなくなり、国内における研究を充実させることにした。具体的にはヤマシタの最新作であるSansei and Sensibility (2020) の翻訳権を手にいれ、現在この小説を翻訳している。翻訳は来年度小鳥遊書房から出版予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの世界的蔓延のため、海外渡航がかなわず、旅費等に使用されるべき費用が未使用になっているため、次年度使用額が大きくなってしまった。ここで牧野は、今までの資料収集、およびインタビューの形式をZoom やウェブ経由のものに変えることで、渡航しないで資料を得るという代替案を立てた。 また論文作成以外に、当該研究で取り扱う作家群の作品を日本語翻訳することで、今までとは異なった視点から当該研究に貢献できるような方法を編み出した。日本語翻訳においてはアメリカの出版社や作家から翻訳権を得る必要があるため、その費用を本科研から捻出することにした。結果海外渡航の費用の一部が当該年度において、コピーライト代となった。今後はこのコピーライトを引いた差額を旅費に充てて研究を継続する計画である。
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