2020 Fiscal Year Research-status Report
アメリカにおける「慰安婦」の記憶表象―小説とモニュメントの考察
Project/Area Number |
17K02563
|
Research Institution | Tokyo City University |
Principal Investigator |
寺澤 由紀子 東京都市大学, 共通教育部, 准教授 (50409439)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 「慰安婦」 / トラウマ / 記憶表象 / ポストメモリー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、「慰安婦」の記憶が、小説やモニュメントといった文化的産物を通して想起される試みや、再現された記憶が個人や社会に与える影響を考察するものである。研究対象としたのは、韓国だけでなく全米各地に設立された「慰安婦」のモニュメントならびに、チャンネ・リーおよびノラ・オッチャ・ケラーによる「慰安婦」を扱った小説だが、昨年2月以降に広がったコロナ禍により、アメリカ、韓国での実地調査が不可能となった。そのため、「慰安婦」像を主たる研究対象からはずし、小説に対象を絞り込むと共に、「慰安婦」をめぐる文献やトラウマ研究、記憶表象、視覚表象に関する文献の分析を引き続き行いながら、新たにキム・ジェンドリ・グムスクによるグラフィックノベルGrassを取り入れた考察を進めた。それにより、当初から予定していた、同じ民族ではあるものの、直接的にその記憶を体験していない者たちによる想起の試みの考察だけでなく、言語のみを媒介とした記憶表象と静止画を主体とした記憶表象という、2つの異なる媒体における想起の過程や表象の在り方、そしてその想起がもたらす影響についての分析を行うことが可能となり、考察の幅が広がった。また、ポストメモリーという見地から、ホロコーストの記憶を扱ったArt SpiegelmanのMausを取り上げ、Grassと比較考察しながら、グラフィックノベルが持つ記憶表象の特性を分析することで、小説との比較考察を深めている。次年度にはその成果を論文にまとめて発表する予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
コロナ禍により、今年度も韓国およびアメリカでの調査を行うことができず、研究対象の変更を余儀なくされたため遅れが生じている。またコロナ禍による研究環境の変化および自身の体調不良もあり、十分な研究時間が確保できず、満足のいく成果を上げられなかった。
|
Strategy for Future Research Activity |
モニュメントを主たる研究対象から完全にはずし、小説およびグラフィックノベルにおける記憶の表象に焦点を移すこととする。そして、それらの研究成果を論文および学会にて発表する。
|
Causes of Carryover |
海外での調査が実施できず、それに伴い、旅費、通訳やデータ処理などの人件費を使用しなかったことによる。次年度には、文献収集、学会への参加、論文投稿、作家へのインタビュー謝金などに使用する予定である。また、状況次第で韓国およびアメリカへの出張が可能となれば、それに伴う諸費用にあてることになる。
|