2019 Fiscal Year Research-status Report
<第二世代>のホロコースト文学研究-1980年以降のドイツ・オーストリアを中心に
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17K02626
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
福間 具子 明治大学, 文学部, 専任教授 (50376521)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ユダヤ系文学 / ローベルト・シンデル / ドロン・ラビノヴィチ / ルート・ベッカーマン / 第二世代 / ホロコースト / ショアー |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、本務校の在外研究員制度を利用し、オーストリアのウィーン大学で客員研究員として活動できたことから、本研究を現地において大きく推進することが出来た。 まず、本研究の対象となる<第二世代>の作家本人である、ローベルト・シンデル氏、ドロン・ラビノヴィチ氏、ルート・ベッカーマン氏と直接お会いし、作品についての詳細なインタビューを行うなど、今後につながる関係を構築出来たことに加え、本分野を研究対象とするウィーン大学、バンベルク大学の研究者と親しく交流し意見交換することも出来た。 具体的には、ウィーン大学のイェリネク研究所に所属し、多くのシンポジウムに出席したことで、アクチュアルな政治性、すなわち「新しい反ユダヤ主義」と呼ばれる、イスラム教徒側や、左派、右派両方からのユダヤ人への攻撃が今日どのようなものであり、<第二世代>の作家たちがそれらと芸術を通してどのように対峙しているのかを間近に見ることが出来た。 他にも、作品と深く関連する場所を取材で訪問し、資料収集を行ったことで、作家たちが現地で過去のナチス政権下の犯罪といまだに関わり続けていることも知った。 このように現地を訪れることで得られた情報、資料は、<第二世代>という現象に関して包括的な研究結果をまとめるために、きわめて有意義なものであった。これまで作品と研究文献を通じてのみ得られてきた知見に、場という文脈を加えることで、より伝わりやすい形で研究結果をまとめることが可能になったと考えている。 バンベルク大学とは、シンデルに関するシンポジウム開催を計画中であり、2020年度よりワークショップの形で共同研究を開始する予定にもなっている。こうしたことからも、現地で本研究を進められたことで研究の基盤は確固たるものになったと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの進捗状況は、計画書に沿っておおむね順調に進展している。現地で直接作家と交流出来たことは、予想外の進展をもたらしたが、他方で、現地で様々な作家を知る中で、計画していたことよりも興味深い別の展開があることを知った。すなわち、ホロコースト生還者がどんどん世を去る局面になっていることと、右派政治家が勢力を伸ばしていることへの懸念からか、非ユダヤ系の作家たちが世代を隔てたホロコーストの記憶について作品化し始めているという事態である。彼らはユダヤ人ではないが、オーストリア、ドイツの歴史の一部としてホロコーストの記憶を捉え、作品化し始めている。このような新しい現象についても目くばせを行ったことにより、当初の計画に少し遅れが生じたが、基本的にはおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である2020年度は、ここまでの研究成果を形にし、かつ次の研究テーマへと発展させる予定である。そのため、<第二世代>研究に関して、バンベルク大学とのワークショップを開始する予定であるが、新型コロナウィルスの世界的感染拡大により、現地への渡航が難しくなっており、研究に遅れが出ることが予想されている。状況の推移をみつつ、オンラインでの交流を進めるなどして、研究成果を積極的に形にしてゆきたい。 現在、シンポジウムへの参加が二件、論文の執筆二本を計画しているが、より包括的に書籍の形での出版を目指し、執筆を行う予定である。
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Causes of Carryover |
2019年度は本務校の制度を利用し、在外研究員としてオーストリアに滞在した。そのため、本来であれば資料収集やシンポジウム参加のために必要な渡航費を科研費から支出する必要がなくなった。それが、次年度使用額が生じた理由である。 差額は、今回構築できた現地の大学との積極的な研究交流のため、渡航回数を増やすことで有益に使用してゆきたい。
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