2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K02639
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Research Institution | Aichi University of Education |
Principal Investigator |
堂薗 淑子 愛知教育大学, 教育学部, 准教授 (80514330)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 顔延之 / 謝霊運 / 仏教 / 達性論論争 / 贈答詩 / 高橋和巳 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、本研究課題の主たる考察対象である謝霊運、および謝霊運とともに当時「顔・謝」と並称された顔延之の仏教思想と著作の特徴について、比較を交えて検討を行い、その成果の一端を論文「顔延之の詩文に対する一考察 ―高橋和巳の顔延之論を踏まえて」としてまとめた。 顔延之は南朝宋を代表する文学者であるとともに仏教に対する造詣も深く、仏教擁護の立場から何承天「達性論」に反駁し、何承天との応酬は各三篇の著作として『弘明集』に収められている。中国文学研究者・小説家の高橋和巳はこの顔延之に強い関心を持ち、その達性論関連著作と、思想面におけるもう一つの重要著作「庭誥」、さらにいくつかの文学作品について考察を加え、その思想的文学的態度を「主知主義」「実力主義」と総括した。本研究ではこの高橋の論をふまえつつ、高橋の論文では解釈が明示されていない達性論関連著作について改めて分析を加え、「庭誥」と合わせ考察しながらその思想的特徴を検証した。また謝霊運の仏教著作「辨宗論」等と比較することにより、謝霊運は自らが聖人となる道を模索したが、顔延之はあくまでも一士人としていかに生きるべきかを模索していたこと、両者の立論の態度、思想的方向性には大きな隔たりがあることを明らかにした。さらに両者間の贈答詩である謝霊運「還旧園作見顔范二中書(旧園に還りて作り顔・范二中書に見す)」詩と顔延之「和謝監霊運(謝監霊運に和す)」詩の構成や表現的特徴を分析し、その思想的学問的態度が詩の特徴とも関わっていることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の目的は魏晋南北朝期の仏教・道教思想が謝霊運による山水詩の確立に与えた影響を考察することであり、当初の研究実施計画では、平成29年度は道教関連文献である『真誥』と謝霊運山水詩との関係について考察予定であった。しかし実際には謝霊運と顔延之の仏教思想、及び詩の特質について考察を進めることになった。これは平成28年度に発表した論文「謝霊運の文学と『真誥』:「有待」「無待」の語を中心に」以後の考察において、晋宋期の道教思想よりも仏教思想の方に先に解決すべき点が多々見いだされたこと、そして高橋和巳の論文「顔延之と謝霊運」に仏教思想に関わる注目すべき視点が見いだされたことによる。そのため29年度の予定を変更して、29・30年度は仏教思想の影響について主に考察し、31年度は道教思想の影響について重点的に考察することとした。謝霊運と生まれ年一歳違いの顔延之の仏教思想については、研究計画段階ではあまり重視していなかったが、今回の分析によって謝霊運とは一線を画す独自の「衆生」観を持っていたことが分かった。またそれぞれの仏教著作にあらわれている両者の思想的特徴が、好対照を成す両者の詩の特質と関わっていることを明らかにすることができた。以上のことから、本研究はおおむね順調と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は当初の実施計画通り、謝霊運とも関わりがあった廬山慧遠の著作「仏影銘」が謝霊運山水詩に与えた影響について考察を進める。特に注目するのは、「仏影銘」の「有待」「無待」及び「賞」の語と、謝霊運の詩文における「有待」「無待」関連の用例、及び謝霊運山水詩にしばしば登場する「賞」の語との関係である。「有待」「無待」の語は、当時進展しつつあった大乗仏教における「法身説」と深く関わるものと考えられ、仏教界におけるこのような新しい考え方が、謝霊運による、自身の精神の反映としての山水描写を促し、山水詩の成就につながったのではないかという仮説のもと、考察を進めていく。なお研究を進める中で、謝霊運の詩文の制作時期が大きな問題となるケースが出てきているため、先行研究において一致を見ていないいくつかの著作の制作時期についても、今後検討を加えていきたい。 平成31年度は、謝霊運山水詩の「賞」の使い方や、その背後に窺われる「有待」の自意識についてまず総括を行う。そのうえで、謝詩に見られる『楚辞』をふまえた恋愛表現の中に、道教関連文献である『真誥』と共通する表現・心性が認められるかどうかについて分析を進める。謝霊運山水詩において仏教思想と道教思想がどのように融合し、山水詩ならではの表現を生み出しているのか、その具体的諸相を明らかにしていきたい。
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Causes of Carryover |
平成29年度の支出は、主に書籍の購入に当てられる物品費も、研究発表や連携研究者との意見交換のための旅費も、おおむね当初の計画通り使用することができた。ただし研究書・注釈書の出版は、予定より遅れて刊行されることも多く、4万円程度を繰り越すことになった。この分は次年度の物品費とあわせ、魏晋南北朝期の文学と仏教・道教思想関連書籍の購入に当てることとしたい。
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