2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K02639
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Research Institution | Aichi University of Education |
Principal Investigator |
堂薗 淑子 愛知教育大学, 教育学部, 准教授 (80514330)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 廬山慧遠 / 謝霊運 / 佛影銘 / 山水詩 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、廬山慧遠の仏教著作「佛影銘并序」が謝霊運の山水詩に与えた影響を明らかにするため、慧遠と謝霊運の「佛影銘并序」、および謝霊運の「入華子崗是麻源第三谷」「從斤竹澗越嶺溪行」詩を重点的に考察した。その成果については、3月に「慧遠「佛影銘」と謝霊運の山水詩」という題で口頭発表を行い、以下の内容を明らかにした。 仏影とは、その昔釈迦が龍の要請をうけて岩壁に自らの姿を留めたと伝えられる仏教遺跡であり、慧遠はそれを模して廬山に仏影窟を造営し、「佛影銘并序」を執筆した。その中で慧遠は、長年考究してきた「法身」に対する考え方を援用しながら、一般の仏像にはない仏影ならではの特性とその意義を強調している。仏影は近づくと見えなくなるという特性があり、そのため目に見える仏の姿に囚われることのない、法身に通じる真の悟りへと対面者を導く力があると慧遠は説いている。謝霊運も依頼を受けて「佛影銘并序」を書いているが、慧遠「佛影銘」の意図を十分に踏まえて、明確な形としては捉え得ない仏影の髣髴たるありさまを重点的に描き出している。 これらの仏教著作は、超越的存在との接触や交感をいかなるものとして捉え、いかに描き出すかという意味において、謝霊運の山水詩とも関わりがある。謝霊運の「入華子崗是麻源第三谷」詩と「從斤竹澗越嶺溪行」詩では、「佛影銘」と重なる表現が用いられており、仙人ゆかりの地でその髣髴たる余韻を捉え時を超えて交感しようと試みた体験を詠っている。類似の作品として廬山諸道人の「遊石門詩并序」があるが、「遊石門詩并序」では超越者との交感が実現して心が伸びやかになった境地を描いているのに対し、「從斤竹澗越嶺溪行」詩では山中で超越者と接触したものの交感には至らなかった苦しみを描いている。ここには目に映る景と心とが複雑に影響し合う様子が表現されており、叙景詩の発展を考察する上で重要な作例である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度は当初の実施計画通り、慧遠「佛影銘」と謝霊運山水詩との関わりについて研究を進めた。慧遠「佛影銘并序」については、従来その法身観を考察するために専ら研究対象とされてきたが、本研究では法身観だけでなく、釈迦の足跡を残す山中の仏影窟がどのように表現され、それが超越的存在との交感を描く謝霊運山水詩の表現とどののように関わり合うのかを検討した。語彙としては、『荘子』に由来する「有待」「無待」にこれまで着目してきたが、30年度は「筌寄」「冥寄」「髣髴」など、法身に関わる語彙をあわせて検討することにより、謝霊運詩文との関わりを明らかにした。ただしその成果については口頭発表にとどまり、現在論文にまとめているが、まだ発表するには至っていない。また慧遠「佛影銘」で用いられている「冥賞」の語と、謝霊運の詩にしばしば登場する「賞」との関わりなどについても、さらなる考察が必要である。以上の理由から、30年度の進捗状況はおおむね順調と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、平成30年度に検討した謝霊運山水詩と当時の仏教思想との関わりを踏まえつつ、謝詩の中で仏教思想とは齟齬する部分について、『楚辞』や道教思想との関わりを考察していく。たとえば30年度に重点的に取り上げた謝霊運「從斤竹澗越嶺溪行」詩では、生きとし生けるものの「はざま」に霊的存在を感じ取ってそれと交感し、最終的には仏教的な解脱を目指す自身の姿を描いているが、そこに描かれる交感のイメージは、仏教で言うところの「感応」とは大きく異なるもののように推測される。当時進展しつつあった大乗思想に基づく法身観では、法身を実体的に捉えることを強く戒めているが、謝霊運の描く交感は非常に実体的なイメージを含むものであり、ここに仏教と道教など各種の思想が混淆・融合している様子が認められる。本研究の最終年度である今年度は、謝霊運の描く「賞」(交感)の内実に迫りながら、仏教思想と道教思想が山水詩の中でどのように混ざり合い、その詩的世界にどのような影響を与えているのか、具体的に明らかにしていきたい。
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Causes of Carryover |
平成30年度は、当初の予定よりも学会・研究会への参加が多くなったために旅費への支出が増え、その分を物品費で調整したため、結果的にわずかながら次年度使用額が生じた。ここ数年中国では研究書や注釈書の出版が盛んであり、本研究に関わる書籍も次々と出版されている。このため次年度使用額は物品費に繰り入れ、魏晋南北朝期の文学と仏教・道教思想関連書籍の購入に当てることとしたい。
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