2019 Fiscal Year Research-status Report
前近代文学者たちの近代―明治・大正・昭和期における伝記と肖像の継承と変容
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17K02656
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
永井 久美子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (10647994)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 肖像 / 絵巻 / 文学者 / 小野小町 / 和泉式部 / 清少納言 / 近現代 / 『源氏物語』 |
Outline of Annual Research Achievements |
上代から近世までの代表的文学者の人物伝と肖像を横断的に分析し、近代以後、古典文学とその作者の人物像がどのように伝わり、広まったかを追う研究課題のうち、平成31年・令和元年度は、平安女流文学者についての研究を前年度に引き続き中心的に展開した。申請時の計画では、平成30年度に額田王、柿本人麻呂ら万葉歌人研究を、平成31年度に芭蕉、蕪村、一茶ら江戸期の俳人研究を行う予定であったが、平成29年度に開始した平安文学者研究をより深める必要性を感じ、平成30年10月から令和元年9月にかけては東京大学ヒューマニティーズセンター(HMC)の助成も得て、平安女流文学者研究を特に重点的に行った。 研究成果として、活字化は令和二年度の予定となるが、清少納言の肖像の成立についての論文をすでに脱稿したほか、和泉式部の人物像の確立と代表歌との関連性について調査した内容をHMCのオープンセミナーで発表した。平成30年度から実施した小野小町をめぐる研究は、その成果を令和元年7月に国際比較文学会で発表し、英語で海外にも発信した。小野小町と世界三大美人言説をめぐる研究は一般への反響も大きく、令和元年には、講演依頼を受け、高校生など若者に向けて研究内容を発信する機会を複数得た(東京大学教養学部「高校生と大学生のための金曜特別講座」および高校生向け合同進学ガイダンス「夢ナビライブ」)。 このほか令和元年度は、平成30年度にワークショップで発表を行った『源氏物語』についての研究の内容を論文「『源氏物語』幻巻の四季と浦島伝説――亀比売としての紫の上」(『アジア遊学』第246号掲載)として刊行した。紫式部について調査を進めるうえで『源氏物語』を再読し気付いた点をまとめたものであり、人物伝をめぐる研究から派生した成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
国際学会での発表を含む口頭発表2件の実施と論文1件の刊行は、計画通り平成31年・令和元年度内に遂行することができた。ただし、令和2年3月以降は予定していた調査が実施できずにおり、年度末にやや予定の停滞がみられた。 また、平安文学者についての研究を当初の予定より重点的に行っている関係から、他の時代の文学者についての研究が遅れ気味である。平安期の研究の継続的遂行により、『源氏物語』に関する新説の発表という成果を上げることができたが、時代を横断して人物評伝を分析することの重要性も改めて認識しており、研究計画の見直しを行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
申請時には、今年度は西行、長明、兼好ら遁世者の研究を行う予定であった。これらの人物についての調査はすでに始めているが、口頭発表や論文発表は未実施であるため、研究成果のとりまとめを行う必要があると考えている。一方で、重点的に行ってきた平安女流文学者についての分析を通して、女性と文学の関わり方の評価の変遷というテーマが浮き彫りになってきた。通史的な研究を目指しつつも、平安女流文学者の研究は今後も継続し、内容をより充実させたいと考えている。まずは、口頭発表済みである小野小町と和泉式部それぞれをめぐる研究内容の活字化を急ぐ予定である。
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Causes of Carryover |
令和元年3月以降は出張の実施を見送ったため、旅費に未使用額が生じた。予定していた作品調査は、コロナウイルス問題の終息後に行いたいと考えている。また、年度末に発注した機器の入荷が遅れたため、物品購入費も一部繰り越すこととなった。
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