2020 Fiscal Year Research-status Report
前近代文学者たちの近代―明治・大正・昭和期における伝記と肖像の継承と変容
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17K02656
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
永井 久美子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (10647994)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 肖像 / 絵巻 / 文学者 / 清少納言 / 小野小町 / 世界三大美人 / 近現代 / 古典受容 |
Outline of Annual Research Achievements |
上代から近世までの代表的文学者の人物伝と肖像を横断的に分析し、近代以後、古典文学とその作者の人物像がいかに伝わり広まったかを追う研究課題のうち、令和2年度は、小野小町研究から発展した「世界三大美人」論と、清少納言論とを活字化した。申請時の計画では、令和2年度は西行、長明、兼好ら遁世者の研究を主に行う予定であった。その分野の資料収集は行っていたが、コロナ禍もあり調査が滞ったことに加え、本研究課題の出発点であった平安文学者研究を深めてゆく中で新たな視野が広がった関係もあり、平成29年度から継続してきた研究内容が主な実績となった。 令和2年12月に発表した「世界三大美人」論については、令和3年3月にオンラインセミナーで国際的に発信する機会も得た。刊行した内容からさらに調査を進めたもので、研究の発展部分は、新たな論文としてすでに脱稿した。令和3年度出版予定の共著の論文集に掲載予定である。 また、エッセイではあるが、既発表の『病草紙』論(「暴露の愉悦と誤認の恐怖――「病草紙」における病者との距離」牛村圭編『文明と身体』臨川書店、平成30年)をふまえ、古典からコロナ禍を考える文章を発表したほか、高校生に向けて『病草紙』論を発信する機会もあった。肖像の研究から派生して、容貌に基づく差別を考えるという問題関心から『病草紙』の分析を行った内容であり、詳細はそれぞれ下記の通りである。 ・「「虚学」にいまできること――不安の克服と「病草紙」」『進学情報センターニュース』第85号、東京大学教養学部進学情報センター、令和2年4月1日、pp. 2~3、http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/agc/news/85/news85_002-003.pdf ・高校生向け合同進学ガイダンス「夢ナビライブ福岡」オンライン講義「絵巻「病草紙」から考える「美」と「醜」」、令和2年10月17日
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和2年度は、1年間を通して出張を控えたため、調査計画に遅延が生じた。ただし、可能な限り研究を進め、「研究実績の概要」に記した通り、論文を2本刊行したほか、研究発表もオンライン開催のものを1件行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究計画の最終年度にあたる令和3年度は、総括の年度として当初位置付けていた。総論の執筆を開始し、これまでの研究を概観することは行うが、各論の進展に遅れが見られる部分については、調査を続けてゆく予定である。現在までの実績は、平安文学者論、中でも女流文学者論に主に集中しており、広く前近代を見渡す研究としては偏りが出てきている。しかし、平安時代の女流文学者の研究を基軸に据えることで、申請時の計画以上に、各論が断片化せず関連性をより強くもつものとなった面もある。引き続き平安時代の文学者たちについての研究を深めてゆくとともに、上代、中世、近世の人物についての研究も進展させる予定である。
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Causes of Carryover |
主たる理由は、コロナ禍により出張費の支出がほぼなかったことである。今年度も出張 は困難であることが見込まれるため、最終年度後の繰り越しを今から見越している。 予算は主に書籍および消耗物品購入費に充てる予定である。
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