2022 Fiscal Year Research-status Report
前近代文学者たちの近代―明治・大正・昭和期における伝記と肖像の継承と変容
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17K02656
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
永井 久美子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (10647994)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 文学者 / 肖像 / 頬杖 / 夏目漱石 / 芥川龍之介 / 太宰治 / 三島由紀夫 / 絵巻 |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度から主に前近代の人物について取り組んできた文学者の伝記と肖像の横断的研究をさらに発展させ、近代以降の作家についても論じたことが、2022年度の主な研究成果である。具体的には、頬杖をつく肖像の類型の成立とその背景をめぐる議論をブックレット『排他と頬杖――作家イメージの類型論』として活字化し、夏目漱石や芥川龍之介、太宰治らの写真を分析したほか、兼好法師の肖像など、前近代の作例との比較を行った。頬杖をめぐる研究に関しては、東京大学連携研究機構ヒューマニティーズセンター(HMC)からの研究助成も合わせて受けることとなり、これまでに展開してきた女性肖像論に加えて、男性作家の肖像についての議論を深めることができた。 このほか、2018年に執筆した絵巻「病草紙」論(「暴露の愉悦と誤認の恐怖――「病草紙」における病者との距離」牛村圭編『文明と身体』(臨川書店)収録)における身体の描写と差別をめぐる議論に医学界から関心を寄せていただく機会があり、『大阪保険医雑誌』第670号のルッキズム特集に、平安貴族の顔貌に対する価値観についての小文を執筆した。 また2023年1月からは、前述のHMCにおいて「「顔」は何を語るのか――過去から未来へ」と題した協働研究も新たに発足させ、描かれた顔の分析にあたり、心理学や情報学などの異分野からの視点を得た研究に取り組み始めている。これから行う個人科研の総括にあたっては、他分野の研究者との議論の成果も反映できる見込みである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
私事ながら身内に不幸があったこととコロナ禍とを承け、2022年も上半期までは研究が十分にできたとは言い難い状況であった。ただし2022年下半期以降は出張も可能になり、遅れていた調査も進めることができた。2022年度内の刊行を目指していた論文は予定通り上梓することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナ禍による研究計画の遅延により、補助事業期間の延長を願い出た。2023年度を、改めて本研究課題の総括の年とする予定である。肖像と伝記の横断的研究の対象を、前近代文学者のみでなく近代の作家についても広げたことを承け、申請時以上に包括的な視点をもつ研究として、とりまとめの論考を執筆予定である。
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Causes of Carryover |
2020年度から2023年度上半期にかけて、コロナ禍もあり出張を控えていた。そのため旅費として申請していた予算を繰り越してきたが、2023年度下半期以降、調査や学会への参加を再開できているため、主に旅費と、とりまとめの論考の執筆にかかる資料および消耗物品の購入費として活用する予定である。
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