2017 Fiscal Year Research-status Report
Cross-linguistic study on articulatory coordination in speech production
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17K02692
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
吉田 健二 日本女子大学, 文学部, 研究員 (10279820)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
林 良子 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (20347785)
坂本 清恵 日本女子大学, 文学部, 教授 (50169588)
宇都木 昭 名古屋大学, 人文学研究科, 准教授 (60548999)
新田 哲夫 金沢大学, 歴史言語文化学系, 教授 (90172725)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 調音音声学 / 鼻的破裂音 / 口蓋帆 / 能楽の伝承発音 / MRI / 日本語福井方言 / 英語 |
Outline of Annual Research Achievements |
おもに以下の3点について成果がえられた。 1) 英語・能楽師の鼻的破裂音の予備的研究:英語話者2名に、鼻的破裂音の出現が予測される単語をふくむ短文を話速をかえて発話してもらう実験を実施した。おなじ環境で出現するはじき音の持続時間が話速が上昇するにつれて短縮されるのにたいして、鼻的破裂音は話速が上昇してもあまり持続時間が変わらないことから、構音運動全体の「圧縮」によってもたらされる現象とはいえないことがうかがえた。いっぽう能楽師の鼻的破裂音はひじょうに持続時間が長く、英語の観察とあわせ、鼻的破裂音は一般的に、その実現に一定以上の時間を要する構音によってもたらされる可能性が示唆される。また、英語・能楽いずれも、鼻的破裂音の直後に局所的なピッチの上昇がみられた。両者の構音上の共通性を反映する現象であることが推察される。 2) 福井方言の鼻的破裂音の予備的研究:福井方言話者の鼻的破裂音について、出現条件を精査し、音響的特徴とくに持続時間パタンの検討を実施した。鼻的共鳴区間は先行する閉鎖区間にたいして平均で1.5倍の持続時間があり、英語・能楽とおなじく、構音に一定の時間を要することがうかがわれた。また鼻腔共鳴区間の持続時間は、後続する子音とのあいだに有意な負の相関があり、鼻的破裂音の実現が、後続する語音と音節境界を越える時間的補償作用を示すこともみいだされた。 3) 福井方言の鼻的破裂音の構音運動の撮像実験:ATR脳活動イメージングセンタのMRI装置を用いた撮像を実施した。特徴量の測定は実施中だが、鼻的破裂音の直前に完全かつ広範囲の口蓋帆の閉鎖がみられることが見出された。上記(2)に報告した持続時間パタンの特徴や、上記(1)に報告した英語や能楽師の発音の特徴につうずる観察だといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究代表者が、本研究課題の中核をなす、医学系装置をもちいた構音運動の映像による観察研究に不慣れであり、この実験実施のために必須となる、被験者の安全性および倫理面での審査に手間取ったため、予定していたMRI実験の実験装置の稼働日や被験者の確保がややおそくなり、実施が年度末の3月となった。しかし、MRI実験になれた分担者の林をのぞく全員がセッションに参加し、「MRI実験の安全性や実施の具体的な面にたいする理解をたかめる」という目的は達成した。 また、音声データの取得はあるていど進んでいるが、音響特徴の測定が遅れている。このため、成果の報告にこぎつけられておらず、この面の一層の努力も必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
応募時の計画どおりの内容を遂行しており、このまま所期の計画にそって研究をすすめる。今年度は、以下の課題を遂行する予定である。(1)英語話者への追加実験:前年度の観察を再検討するため鼻的破裂音が実現しない(しにくい)とかんがえられる、英国英語話者を中心に、音響的特徴を検討する。(2)英語話者のMRI実験を実施する。(3)福井方言話者の音声データ、MRI画像データの補充をおこない、結果をまとめ、学会での報告をこころみる。また、(1)(2)の結果も適切かつまとまった知見がえられたと判断できれば、学会での報告をこころみる。(4)能楽師の発音の音響データの取得、MRI実験の両方を実施する。(5)あらたに、中国ビン南語のいりわたり鼻音および、韓国語の鼻音の弱化の検討を開始する。いずれも音響面の観察を精緻化し、音響的特徴を精査したうえで、MRI実験の項目を確定する。できるかぎり、MRI実験までこぎつける。また、以上のデータの測定・分析をできるかぎり急ぐ。 最終年度は、やはり計画どおり、えられた知見のまとめに注力する。したがって、学会等での発表、学会誌への投稿も考慮する。これにくわえて、上記の各実験でえられた音声サンプルをもちいて、音声知覚の言語間比較も実施する。 最大の課題は、MRI画像の定量化である。参照できる先行研究があまりおおくないので、あらたな定量化の方法を模索・提案することも考慮にいれる。
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Causes of Carryover |
医学的実験装置(MRI)をもちいた構音運動の映像データ取得のための、安全性承認がおくれたため、実験の実施が一回にとどまり、予定した金額の執行ができなかった。本年度はMRIによる実験を早期に実施し、遅れをとりもどす予定である。すでに安全性承認審査に着手しており、まもなく手続きが終了する見込みである。また、昨年度のうちに依頼して参加の許諾を得ている被験者もいるため、この点は順調に執行できるとかんがえている。 また、分析結果・知見をまとめて学会で発表する機会を設けられなかったので、出張費の支出も予定を下回った。本年度は学会発表の応募を予定している。
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Research Products
(2 results)