2018 Fiscal Year Research-status Report
外国人就労フィールド調査と「職場の日本語能力指標」及び「支援プログラム」の開発
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17K02795
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
大平 幸 立命館大学, 国際教育推進機構, 嘱託講師 (80776831)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森本 郁代 関西学院大学, 法学部, 教授 (40434881)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 定住外国人 / 就労支援 / コミュニケーション / 相互行為分析 / フィールド調査 / 多文化共生 / Can Do Statements / 職場の日本語能力指標 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、日本に定住する外国人が働きやすい環境づくりを行うことである。 平成29年度は、販売店の「レジ場面」に焦点を当て、「職場のCan Do Statements(以下Cds)」試作版の試用と改編を行った。「レジ場面」については、Cds作成にあたり調査対象とした販売店において、本Cdsの試用と改編を行い、本Cdsが実際の職場においても利用可能なものになっているかを検証した。 平成30年度は、さらに3つの職場の協力者とともにCdsの改編を行い、本Cdsが調査対象店以外の場においても利用可能ものになっているか調査した。その結果、本Cdsが、適用範囲の広さを担保しつつ、職場の個別性に対応可能なものとなっていることが示された。平成30年度は、さらに職場における「指示場面」に焦点をあて、就労現場の録画をもとにした相互行為分析を行った。その結果、職場の指示場面において、指示する側と指示を受ける側、双方が指示という行為を達成するため、様々な方略を用いていることが明らかになった。今後この結果をもとに「指示場面のCds」を作成し、その使用の方法も含めて提案を行っていく予定である。 これまで、職場でのコミュニケーションの成否の要因は、働く外国人の能力に帰されてきた。本研究における相互行為への焦点化は、職場のコミュニケーションが、働く外国人だけでなく、受け入れ側の人々との協働により成り立つものであることを可視的に示すものである。また、Cds改編を通した職場の人々との対話は、研究者も含め、外国人や職場で働く他の人々の認識を変化させるものとなる。そのような意味で、平成30年度の取り組みは、日本に定住する外国人が働きやすい環境づくりを行い、多様なバックグラウンドを持つ人々が共に働ける職場を実現することに貢献するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度は、引き続き、「職場におけるコミュニケーション調査と分析」、「職場におけるCdsの試作と改善」に取り組んだ。 1 「職場における言語行動の調査」平成29年度は、コンビニエンス・ストア、大学生協、衣料品を扱うチャリティ―ショップなどの販売店において、録画収録及び観察調査を行った。平成30年度は、コンビニエンス・ストアにおいてより詳細な聞き取り調査を実施した。さらに、チャリティーショップにおいて、新たにインターンシップ研修を実施し、データの拡充を図った。
2 「職場における能力指標Cdsの試作と改編」平成29年度は、販売店の「レジ場面」に焦点を当て、Cds試作版を作成し、調査対象とした販売店において試用と改編を行った。平成30年度は、さらに異なる特徴を持った3つの販売店の協力者とともにCdsの改編を行い、本Cdsが、適用範囲の広さを担保しつつ、職場の個別性に対応可能なものとなっていることを確認した。また、本Cdsを使い、個々の職場において求められる職場の能力のあり方について関係者間で確認し、共有することが可能であることを確認した。今後、その過程において得られた改善点を検討し、働きやすい職場環境を作るためのCdsの開発を前進させていく。
3 「職場におけるコミュニケーション分析」1で得られた調査データをもとに、分析を行っている。平成29年度は、指示場面や教示場面、クレーム対応場面、雑談場面など、仕事の遂行において特に重要な役割を果たす場面の選定を行った。平成30年度は、「指示場面」に焦点をあて、相互行為分析の手法を用い、データ分析を行った。その結果、職場の指示場面において、指示する側と指示を受ける側、双方が指示という行為を達成するため、様々な方略を用いていることが明らかになった。今後この結果をもとに「指示場面のCds」を作成し、その使い方も含め提案を行っていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成31年度は、「職場におけるCdsの開発」と「職場におけるコミュニケーション分析」をさらに発展させる。
1 「職場における能力指標Cdsの試作と改編」平成31年度は、「指示」、「接客」、といった、仕事の遂行に大きく影響する場面のCds開発を推し進める。特に本年度からは「職場のCds」を、職場のメンバー間でコミュニケーション課題を共有し、職場のメンバーの成長を促すための指標と位置づけ、開発を行う。「指示」、「接客」などの場面は、業種を超えて共通してみられるコミュニケーションであり、これらの場面におけるCdsは、販売店に限らず、より広範に使用可能なものとなることが期待される。Cdsの開発にあたっては、これまでの調査によって得られた改善点を検討し、その結果を新たなCdsに反映させていく予定である。
2 「職場におけるコミュニケーション分析」これまでの調査からは、働く外国人が、言語能力によらず、職場において有能さを発揮していることが明らかになっている。また、「指示場面」に焦点をあてた相互行為分析からは、職場の指示場面において、指示する側と指示を受ける側、双方が指示という行為を達成するため、様々な方略を用いていることが明らかになっている。これは、職場のコミュニケーションが、働く外国人と受け入れ側の人々との協働により成り立つものであることを示すものである。今後は、コミュニケーションを促進する要因として、受け入れ側の行為にも焦点をあて、コミュニケーション分析を進める。また、これに加え、職場を、職場の人々にとっての学習環境という観点から捉え直し、分析を進めることによって、外国人が働きやすい職場環境の構築のための方法を探求していく。
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Causes of Carryover |
次年度使用が生じた主な原因は、昨年度と同様、予算として計上していたインターンシップ調査の期間が予定よりも短いものとなったためである。計画当初は、1回につき1か月程度、2名の定住外国人の方に協力いただき、就労現場における調査を実施する予定であった。しかし、実際のところ、インターン受け入れ団体とインターンとの日程調整が難しく、長期の調査実施が難しいことが判明した。次年度使用が生じたのは、そのためである。次年度使用が生じた予算に関しては、以下2点に使用する計画である。 1.調査についてはこれまで通り、短期のインターンシップ調査を継続して行っていく。それと並行し、すでに外国人を従業員として雇用している団体に協力いただき、職場の現地調査を実施する。これにより、経年変化を視野に入れた縦断的な調査を実現する。 2.「職場におけるコミュニケーションの分析」、「職場におけるCdsの試作と改善」につき、すでに得られたデータから分析を進め、その研究成果を学会等で積極的に発信する。成果の発信にあたっては、学会等の発表のみならずプロジェクトのHPを作成し、HP上でも行っていく。
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