2019 Fiscal Year Research-status Report
Labeling in syntax: a top-down approach
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17K02811
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Research Institution | Osaka Kyoiku University |
Principal Investigator |
寺田 寛 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (90263805)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 統語論 / トップダウン / ボトムアップ / ラベル / 経済性 / 随伴 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、3つの成果を上げることができた。 1つめの成果は、日本英文学会関西支部から毎年発行されている『関西英文学研究』に特別寄稿を依頼され、疑問文における随伴現象に関する研究を寺田(2020a)として出版した。随伴は、whichやwhoseのような疑問詞が他の句を先導してよりwhich bookやwhose bookなどの大きな構成素として移動されることをいう。この拙論は、Chomsky (2013, 2015)のボトムアップ式の付票貼付演算法(Labeling Algorithm)により英語における疑問詞の随伴現象の基本的な性質を捉える試みを行った。この現象は、従来、Cable (2010)などによって疑問詞句に付着する疑問不変化詞(Q-particle)が疑問詞句を伴って移動するとみなされており、Chomsky (2013, 2015)における付票貼付演算法もその提案に立脚している。拙論は、疑問不変化詞にもとづくCableの分析の問題点を指摘し、Chomskyの付票貼付演算法にもとづく疑問文における随伴現象を提案した。 2つめの成果は、寺田(2020b)としてトップダウン式の付票貼付方法にもとづいた統語構造の派生に基づき、上述の寺田(2020a)のChomksyのボトムアップ式の構造派生の分析には問題が残るとし、which bookやwhose bookなどの随伴が起こるべき文ではwh疑問詞が随伴を引き起こさなければ、併合操作が効率的に行われることを要求する経済性条件によって排除されることを主張した。 3つめの成果は、The Cambridge Grammar of the English Languageという英文法書の世界的な大著のChapter 5を共訳者と共に和訳し、その責任訳者を務めて出版した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
付票貼付の研究を進めているが、必ずしも研究に効率よく研究を進めることができないために、予定よりも研究成果が出ていないため、やや遅れていると判断した。 自らの研究成果としての言語理論の内的な矛盾や証拠の不足などの問題があることを認識し、理論内部の問題点を解決することに手間取っていて、より広範な言語現象に研究を拡張するに至っていない。 2019年度は、論文を2本と訳書を1冊出版できたため、けして研究が停滞しているということではないが、大学の雑務と教育などに多くの時間を取られ、精神的に追い詰められているように感じるばかりである。訳書を出版するうえで、共訳者の訳を修正するうえで多くの時間と労力を費やさざるを得なかったことも、研究を広下ていくうえで制限された理由の一つである。
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Strategy for Future Research Activity |
トップダウン式の付票貼付の研究の最終年度に当たって、以下の3つの目標を達成するために研究を推進する方策を講じる必要がある。 1つめは、2019年度に拙論の中で提案した疑問文のトップダウン式派生と付票貼付の理論には、いくつか理論的に整合性が弱いと思われる点があるため、その問題点の解決策を提示し、言語理論の修正に努める。 2つめは、2019年度の上述の拙論において提案した理論は疑問文の随伴についてのみ説明を行うことができるという点で扱っている言語データが十分であるとは言えない。そのため、随伴現象でも特に複雑で、これまでに言語理論で精緻な説明がなされてこなった非制限関係節の言語データを説明できるよう取り組み、理論の強化に努める。 3つめは、The Cambridge Grammar of the English LanguageのChapter 5を訳して出版した2019年度の版を改訂するために、訳語の点検を行い、同時に、この章で記述されているデータをトップダウン式の付票貼付理論に適用し、言語理論の拡張に努める。
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Causes of Carryover |
年々高額になっている学術雑誌の値上げ分などを考慮して、少額ながら今年度に残った金額を次年度に繰り越すことにした。
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Remarks |
(1)では拙論のDOIや無料掲載がこの報告書を発表する段階では完了していないものの、1年後にはこのウェブサイトに拙論のDOIや無料掲載が行われる予定である。 (2)では当方が責任訳者を務めた「名詞と名詞句」の訳書が紹介されている。
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