2017 Fiscal Year Research-status Report
Synchronic and Diachronic Studies in English Off-glides
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17K02819
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
藤原 保明 筑波大学, 人文社会系(名誉教授), 名誉教授 (30040067)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | あいまい母音 / 母音連続の回避 / 語末の <e> の消失 / 閉音節化 / 入りわたり / 出わたり / 中英語 / 詩のリズムの調整 |
Outline of Annual Research Achievements |
ende 'end', herte 'heart', swete 'sweet' などの語末のあいまい母音は15世紀末までにすべて消失した。その原因を母音連続の回避にあるとみなす説が有力であるが、中英語の4編の脚韻詩のあいまい母音を韻律分析をした結果、母音連続のあいまい母音が削除されるのは「弱強」という詩のリズムを調整するためであり、完全音価の母音が語中と語間で隣接し、母音連続となっていても母音は削除されないことが判明した。それゆえ、詩のリズムの都合で削除される語末のあいまい母音は一般的な母音連続を形成する母音とは同等ではないという主旨の論文にまとめた。 一方、語末のあいまい母音が消失すると、元々子音で終わっていた flower, head, town などの語と共に、中英語末期以前に由来する8割以上の語は子音で終わることが分かった。一方、dry ice, to eat, candy apple のような語間の他に、oasis, hyena, koala などの単一形態素の語中でも母音連続は [j, w] によって避けられていることが判明した。それゆえ、「入りわたり」のみならず「出わたり」の [j, w] にも音節を閉ざす機能があると主張する論文を作成した。 さらに、stir, bird, pearl などの母音の直後の <r> はイギリス南部の英語では発音されない理由として、1) [r] が発音されなくても、綴り字が維持されていると、the car of the year のように母音で始まる語の前で [r] が復活すること、2) 正書法の確立以降、音の消失後も綴り字は維持され、語形の明示性が保たれ、同音異義語は綴り字から区別できること、3) 母音の後で弱化しやすい、あいまい母音に似た [r] はあいまい母音に吸収されたという事実を指摘し、論文にまとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
現代英語の最小の音量単位の画定に深く関わっていると考えられる「出わたり」の [j, w] の由来と機能を解明することが本研究の目的である。この課題に取り組む過程において、中英語末期以降に外来語として英語に参入した camera, sofa, zebra などの語はあいまい母音で終わるのに対して、中英語末期以前から用いられている day, do, go, sea などの母音で終わる在来語は出わたりの [j, w] で終わるという、語末の母音の分布の際立った相違が存在することを指摘できた。それゆえ、中英語末期から用いられている在来語は現代英語に至る過程において、語末が閉音節で終わるような音変化を経ている可能性が強くなった。 このように、本研究で長母音の後半部分と二重母音の第二要素は出わたりの [j, w] とみなしたことにより、現代英語の母音で終わる語は、中英語末期以降に英語に借用された <a> で終わる外来語に限られるという極めて興味深い事実を提示することができた。さらに、この <a> はあいまい母音を表わすが、在来語であいまい母音を表わしていた語末の <e> は15世紀末までにすべて消失してしまっていることから、在来語の語末はすべて子音で閉ざされることになっているという興味深い事実を引き出すことが可能となった。 このような際立った通時的音変化は、さまざまな証拠に基づき閉音節化とみなせることから、英語の通時的音変化には、強勢母音で始まり、子音で終わる最小の音量単位の形成という方向性が存在したことになる。それゆえ、今後の研究はこの方向性を裏付ける特徴と証拠を探る段階へと進むことができ、研究が予想以上に順調に進行していると言える状況にある。
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Strategy for Future Research Activity |
言語には人間のような意志がないことから、特定の目的に向かって自らを変えていくということはあり得ない。しかし、英語は過去千数百年の間にかなり激しい通時的変化を経てきたことから、変化の過程を裏付ける資料が豊富に残されている。それゆえ、変化の方向性を捉えることや、その特徴を一般化することは可能である。 日本語やモンゴル語などには「モーラ」(mora) という単位があり、フランス語、イタリア語、スペイン語などには「高さアクセント」を担う「音節」という単位があり、これらの単位が音量やリズムの形成に関与している。ところが、英語の場合、語や句の音量を決定するのはモーラでも音節でもなく、「強さアクセント」(=強勢)であると言われている。しかし、強勢は kind, kindly, kindliness, kindness の第一音節のように母音を中核とする音節に置かれ、同一語内の強勢音節の後に無強勢音節があると、それらの音節は強勢音節から音量を借りることができるが、unkind, for kindness のように強勢母音に先行する無強勢音節にはこの音量の借用は許されない。もっとも、強勢音節に先行するこのような無強勢音節は語や句のリズムに加わることは可能である。 このような制約を見ると、英語の音量単位を明確に規定するのは容易ではないが、それを可能にする手がかりがないわけではない。最も大きな手がかりは、中英語末期以前から用いられている在来語が閉音節で終わるという事実と、このような結果を導いた通時的音変化の過程にある。それゆえ、今後の研究は閉音節化という視点からの英語の通時的音変化を精査することが中心となる。
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Causes of Carryover |
購入予定の書籍一式の金額が残高を上回ったことから、当該書籍は次年度の予算から補填して購入する。
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Research Products
(4 results)