2018 Fiscal Year Research-status Report
Sociophonetic research on current accents of English in the North of England
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17K02821
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Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
三浦 弘 専修大学, 文学部, 教授 (00239188)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 音声・音韻 / 英語方言 / 発音変種 / 社会音声学 / 音声分析 / イングランド北部英語 / マン島英語 / マン島語 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度はイングランド北部英語のランカシャー州とヨークシャー州の英語を調査するためにランカシャー州ではプレストンに、ヨークシャー州ではリーズに宿をとり、公立図書館を中心に方々で適切な被験者を探した。しかし、イングランド北部の町はどこも移民が非常に多く、適切な地域方言話者を見つけるのに大変苦労した。 ランカシャー州では、プレストン市内のハリス図書館とブラックバーン中央図書館を何度も往復し、プレストン出身の被験者が数名得られた。ヨークシャー州では、はじめに大都市であるリーズで試みたが、移民ばかりで2日間で20軒以上の公共施設を訪問したが、被験者が見つからなかった。そこで近隣の町であるシップリーに移って、ボーリング場の従業員たちの協力でようやく複数のブラッドフォード方言話者の音声が収録できた。 プレストンのFACE母音に二重母音が見られたが、イングランド北部では単一母音が一般的である。しかし、イングランド北部の大都市リバプールとマンチェスターでは、この母音は近年二重母音になってきているので、プレストン英語でも変化が始まっていることがわかった。ブラッドフォード英語では、MOUTH母音、TRAP母音, PALM母音等に著しい前舌化が見つかった。 本研究課題のテーマの一つであるマン島英語の由来(マン島英語はどこから入ったか)に関連させて、平成29年度に収録したマン島とリバプールの音声分析と比較して考察した。母音に関してはマン島北部の英語発音に近いのはブラッドフォード英語であり、マン島南部の英語発音に近いのはリバプール英語の労働者階級の発音であった。しかしながら、子音にはいくつかの隔たりが見られ、マン島英語にはマン島語の干渉も残されていた。ブラッドフォード英語は音節末のRを発音するR音変種であり、<ing>の発音では末尾の破裂音が保持されているが、マン島英語にそのような特徴はない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度にマン島とリバプールで、平成30年度にランカシャー州プレストンとヨークシャー州ブラッドフォードで英語方言の収録を行い、母音や子音の分節音については各方言の現状を把握するための音響的な音声分析と考察ができた。また、マン島英語についてはマン島語の干渉、リバプール英語に関しては19世紀のアイルランド島からの大量移民によるアイルランド語の影響といった英語史的なテーマに基づく考察をいくつか実施し、研究発表も行った。これらのデータについてはさらに分析を進めて、平成31年度(令和元年度)にも新たな研究発表を行う予定である。 平成29年度の調査からマン島の英語は、イギリスのほかのケルト系地域(スコットランド・ウェールズ・コーンウォール)の英語のようなイングランド南東部英語ではなく、イングランド北部英語が母体になっていることがはっきりとわかった。イングランド南部の英語(標準英語)とは異なり、FOOT母音とSTRUT母音が分裂していないこととBATH母音が広母音化していないことから、標準的な英語の変遷史に見られるような英語の発達がなされなかったイングランド北部英語が母体となっていることが容易に判断できた。その事実からマン島英語の由来を考察するというテーマも生まれ、マン島へのフェリー発着地であるリバプールとマン島に最も近いランカシャー州の英語を比較してみた。ランカシャー州の英語が他のイングランド北部英語とどの程度異なるのかを見るために、隣(東側)の州であるヨークシャー州、それも比較的ランカシャー州に近いブラッドフォードの音声も収録し音響的に音声分析して比較した。本研究課題の最終年度である平成31年度(令和元年度)にもう一度ランカシャー州、それもプレストンより北にあるランカスターで音声を収録して比較してみるという研究計画もこれまでの成果から生まれたものである。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の最終年度となる平成31年度(令和元年度)には、4年に一度の国際音声学会議(ICPhS 2019)が開催され、世界中から700名ほどの音声学者が集結するので、参加して情報交換をする。開催地であるオーストラリア・ヴィクトリア州のメルボルンは、19世紀ヴィクトリア女王治世の初期のメルボルン卿がイギリス首相であったときにできた植民地から発展した都市であり、イギリス英語の発達という観点からは非常に興味深い場所なので、今後の研究課題のために音声収録や資料収集も試みる予定である。 イングランド北部では、ランカシャー州の英語方言をさらに追究するために、ランカスターで調査を行う。ランカスターへの経由地であるマンチェスターでも当初の計画通り方言音声の収録を試みる。過去2年のリバプール、プレストン、ブラッドフォードでは被験者を見つけるために非常に苦労した。現地に方言保存会もあるが、発音について研究している研究者がおらず、語彙研究に偏っていた。そのため、公共施設を回って地元出身者を探したが、移民ばかりで適切な被験者は少なかった。最終年度のランカスターでの調査のために、音声学者ではないが、ランカスター大学言語学・英語学科の研究者に協力を依頼中である。
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Causes of Carryover |
次年度の支出予定額が支払予定額よりも多く見込まれたため,次年度の研究が円滑に進められるように,節約して繰り越した。
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Research Products
(6 results)